2012年5月21日 (月)

「ハネムーン・キラーズ」

デイブ・マタックスがレコードコレクターズ誌の20世紀のベスト・ドラマー100の38位に入っているのはうれしい限り。和久井光司という人が書いている説明も短い中にうまくまとめています。フェアポート・コンベンションの「リージ・アンド・リーフ」と「フル・ハウス」でトラッドのロックを推進するのを支え、「マッチョ系ドラマーにはないビートの鋭さ、小気味よさがある」とのこと。なにしろ、ひ弱な秀才タイプの風貌ですから。ポール・マッカートニーの「タッグ・オブ・ウォー」と「パイプス・オブ・ピース」に参加しているということなので、記念に買っちゃおうかなあ。推薦盤として挙げているのはフェアポートの「リージ・アンド・リーフ」で、納得(Fairport Convention "Liege and Lief")。

昨日は、アメリカのクライテリオンから2003年に発売されたDVD「ハネムーン・キラーズ」 (The Honeymoon Killers) を見ました。2000年に日本で公開されたらしいです。もともとは1970年にアメリカで公開された映画なんですが、その後、一部の熱狂的なファンを持つ、いわゆるカルトムービーになりました。4月23日にここに書いたように、情欲殺人スリラーです。ただし、そのとき飾った写真ほどエログロではない。主人公の女性が太っている以外は、案外まともなスリラーでした。というよりも殺される女性各々の描写も含めて、残酷なユーモア作品と言っていいかもしれません。

白黒映画で、カメラが自由に動き、照明がいい加減で、野外撮影だと背景が真っ白になったり、やたらテンポが速い箇所があったり、撮り直しのできない低予算のためにドキュメンタリーぽくなったり、マーラーの音楽の大げさな使い方がオフビートな感じだったりで、まるでヌーベルバーグ作品を見ているようでした。主演の女性がステファーヌ・オードランだったら、4月23日のリストの前後にあるシャブロル作品と間違えるかもしれない。カメラの動きや照明の感じはゴダール作品のラウール・クタールみたい。しかも、トリュフォーが大好きな作品だそうです。

これは実話であるという字幕が最初に出てきます。40年代後期に全米を震撼させた「ロンリー・ハーツ・クラブ殺人」事件がもとです。婚活クラブ(ロンリー・ハーツ・クラブ)で知り合った二人が共謀して、小金を持つ寂しい熟年女性に結婚詐欺を働き、次々と殺していきます。たぶん5名ほどが犠牲になったでしょう。まあまあのイケメン、トニー・ロー・ビアンコが女性をだます男で、太ったシャーリー・ストーラーが彼の妹と称して、新婚旅行に同伴します。もし男性の単独犯なら、チャップリンの「殺人狂時代」に似ていただろうし、女性の単独犯で、殺す相手が男性ならトリュフォーの「黒衣の花嫁」です。

不機嫌で、性的に欲求不満で、太っている元看護婦と、イケメンだが頭は良くないスペイン系「つばめ」が無慈悲に女性たちを殺していく中で、互いに対する性的欲求を高めていきます。殺人とセックスは関連しているようで、実際、ある女性を殺した直後に男が女にセックスを求めるシーンがあります。ただし、直接的なセックス描写は抑制されているし、暴力描写も間接的で、そのあたりはスマートに処理していると思います。

ポーリン・ケイル女史はお気に召さなかったようですが、概して批評家が好意的に受け止めたため、20万ドルという予算を5日以内に回収できたそうです。

IMDb によると、当初の監督はマーティン・スコセッシだったそうです。プロデューサーがスコセッシの撮影方法を気に入らなくて、レナード・カッスルという監督に交代しました。レナード・カッスルの作品は、これ一本きりのようです。

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2012年5月 6日 (日)

「昭和残狭伝・血染の唐獅子」

昨日放映された「阪急電車・片道15分の奇跡」は良い子がオネムする時間からなので録画しました。近いうちに見ます。昨日は、楽天のぐるぐる王国からエイゼンシュテインの「イワン雷帝」、アントニオーニの「さすらいの二人」、マキノ雅弘の「昭和残狭伝・血染の唐獅子」のDVDが届いたので、さっそく「昭和残狭伝・血染の唐獅子」を見ました。

「昭和残狭伝」シリーズは全部で9本。

  1. 「昭和残狭伝」(佐伯清、1965)
  2. 「唐獅子牡丹」(佐伯清、1966)
  3. 「一匹狼」(佐伯清、1966)
  4. 「血染の唐獅子」(マキノ雅弘、1967)
  5. 「唐獅子仁義」(マキノ雅弘、1969)
  6. 「人斬り唐獅子」(山下耕作、1969)
  7. 「死んで貰います」(マキノ雅弘、1970)
  8. 「吼えろ唐獅子」(佐伯清、1971)
  9. 「破れ傘」(佐伯清、1972)

なかでは「死んで貰います」が有名なのかもしれませんが、健さんと藤純子のやりとりが叙情的すぎて、私は「血染の唐獅子」が一番好き。ここでも二人の場面はかなり艶っぽいですが、映画全体で占める割合が少ないので、全体の印象に影響するほどではないです。

むしろ、健さんと池部良の関係のほうが深くて、精神的ホモって言葉は、この二人のためにあるんじゃないかと思えるほどです。なんたって、このシリーズの白眉は、健さんが歌う主題歌をバックに二人が殴り込みに行く道中が延々と続いたあと、二人が刀で悪い組の連中を斬っていくラストなんだから。二人の名前、花田秀次郎と風間重吉を含めて、こうしたパターンが確立するのは、この四作目らしい。マキノ雅弘にバトンタッチしたのが大きいのか。

昭和の初めに東京博覧会というのを浅草でやるので、加藤嘉率いる良い組が張り切るんだけど、河津清三郎率いる悪い組が割り込んできて、嫌がらせをするという話。河津のそばにいつもいるのが天津敏(あまつ・びん)で、健さんと堂々と渡り合えるぐらいの背の高さで、私のお気に入りだったのですが、ここでは洋服を着ていて、あまり悪役としての見せ場はない。何か悪いことをしようとすると、代貸の池部良に抑え込まれます。悪徳市会議員の金子信雄が加わっても、健さんと池部良の迫力にはかなわず、ラストの殴り込みも、爽快感よりむなしさが残ります。

池部良が河津清三郎に盃で頭を割られるシーンが記憶にあったのですが、正確にはビール瓶でした。

「日本侠客伝」シリーズよりも、孤独感が強い印象があったのですが、ここでも集団の団結力が強かったです(とすると、この二つのシリーズの違いは何なのでしょう)。良い組のメンバーの山城新伍が芸者牧紀子にほれていて、彼女を河津に渡さないために組のまといを質に入れて、金を工面するというエピソードでも、あとでみんなで金を出しあって、まといを取り戻そうとします(牧紀子は昔松竹にいて、「秋刀魚の味」の笠智衆の部下です)。

吃音症でむさくるしい津川雅彦は役を作りすぎだと思ったり、水島道太郎が二歳年下の清川虹子の息子役っていかがなものかと思ったり、兄と恋人が死を覚悟して殴り込みに行ってしまう藤純子はどれだけ不幸なんだろうと思ったりもしますが、殴り込みに迫力があるのですべて許してしまいます。

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2012年4月12日 (木)

ボリス・バルネットの「トルブナヤの家」(1928)

本日二本目の記事。

昨日紹介した Landmarks of Early Soviet Film から。

もう40年近く前の高校の夏休み、広島市の古本屋で5千円ほどで購入したゴダール全集全4巻。3巻まではシナリオ集ですが、4巻目はエッセイ集。その中に「ボリス・バルネット」と題されたエッセイがあったので、ずっと頭の片隅にあった人です。あらためて読んでみると、1959年4月に「カイエ・デュ・シネマ」誌に書いたエッセイで、「ピエロとレスラー」(1957)がシネマテークで上映されて、満員になったと書いてあります。その2年前に「黒海のほとりで」(1936)が上映されたときはガラガラだったのに。

ボリス・バルネットは今年ユーロスペースで上映されたらしいのですが、そのときは上映されなかったらしい「トルブナヤの家」が私にとってはバルネット初体験。これが、とてもチャーミングなコメディで、前年の代表作「帽子箱を持った少女」の米盤DVDも注文してしまいました。よく調べたら、10年前にアテネフランセで上映されたようです

開巻、夜明けのモスクワの街をとらえたショットの積み重ねが詩的で素敵。階段で、たきぎを切ったり、カーペットのほこりを叩いたり、ゴミを捨てたりする不潔なアパートが舞台で、下のほうにある美容院の若い男性店員は大変。彼が主人公と思いきや。

モスクワの街中、田舎娘がアヒルを追いかけています。彼女が市街電車にひかれそうになった瞬間、車掌が飛び降りてくるのですが、車掌が宙に浮いた状態でストップモーション。こんな古くからストップモーションがあったのか。

さて、なぜ彼女がアヒルを追いかけているのか。話を1日前に戻すと、という語り口がシャレています(ちなみに、サイレント映画です。素敵な音楽が付いています)。おじさんを当てにしてモスクワに来たのですが、彼女と入れ違いにおじさんは田舎に帰ったものだから、途方に暮れるパラーニャ。彼女が街の人々に道を聞くシーンも面白くて、みんな適当に教えるものだから、最後パラーニャに同じような田舎娘が道を聴いたとき、適当に「あっち」と指さしながら答える。

パラーニャがショーウィンドウに見とれているとき、アヒルが逃げ出すのですが、市街電車にひかれそうになったとき、同じ田舎出身のタクシードライバーと出会い、彼の住む例のアパートに行くのです。

で、美容院で働くことになるのですが、いかがわしい店なので労働組合員は雇いません。先ほどの男性店員が「組合員か? Are you in a union?」とたずねると、パラーニャが「処女です。I am a virgin」と答えるのがおかしい。union は結合という意味合いがあるから、処女と対照的な意味にも使われるんでしょうね。でも、もとのロシア語だとどうなっているんでしょうね。

で、この男性店員と恋に落ちるのかと思いきや、この男性店員、アーバックル作品のアル・セント・ジョンみたいに、外見は悪くないのに根性の悪い奴で、彼女をこき使う。女性店主も彼女をこき使う。彼女が疲れてぐったりしているところに女性の組合員がやってきて、組合に誘う。

ここまでが前半で、後半少々もたつき気味ですが、小さくてがっしりした体格のパラーニャが可愛らしいし、魅力的に撮影されているしで、彼女に対する共感で最後まで持たせてくれます。組合や女性の投票権といった政治的な問題もうまく織り込まれています。みんなが旗を振りながらデモをした後、少しずつ解散して、パラーニャ一人が取り残されるのを俯瞰で撮影したショットなんて、パラーニャが途方に暮れた感じがうまく表現されていました。

このような撮影の仕方や語り口など、とても才能のありそうな人で、ボリス・バルネットの作品もっともっと見たくなりました。

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2012年4月11日 (水)

レフ・クレショフの「掟によって」(1926)

本日二本目の記事。

少し前に購入した Landmarks of Early Soviet Film はDVD4枚組で、次の8作品が含まれています。

  • レフ・クレショフ 「ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険」 (1924)
  • レフ・クレショフ 「掟によって」 (1926)
  • エイゼンシュテイン 「全線-古きものと新しきもの」 (1929)
  • ボリス・バルネット 「トルブナヤの家」 (1928)
  • ジガ・ヴェルトフ 「進め、ソヴィエト!」 (1926)
  • エスフィリ・シューブ 「ロマノフ王朝の崩壊」 (1927)
  • ヴィクトル・トゥーリン 「トゥルクシブ」 (1929)
  • ミハイル・カラトーゾフ 「スヴァネチアの塩」 (1930)

昨日はレフ・クレショフの二本を見ました。クレショフは、同じ表情のショットに食べ物や女性などの異なるショットをつなげたら別の表情に見えてくるというモンタージュの基本を確立した人として知られていますが、作品自体はさほど知られていないんじゃないかと思います。

「ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険」は奇妙なドタバタコメディで、私の手に負えないので、パスさせてもらうとして、「掟によって」は強烈なドラマでした。

30年前にリチャード・ラウド編集による二巻の "Cinema: A Critical Dictionary" という本を購入して、その中に次の写真があって、それ以降、どんな映画なんだろうと、ずっと思いを巡らせていました。

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この写真が示すように、モンタージュよりも、ショット内のイメージが強く印象に残る作品でした。

ジャック・ロンドンが原作です。各国から来た男四人、女一人がカナダとアラスカを流れるユーコン川のそばで金を探しています。わりと仲良く生活していると思っていたら、そのうちの男一人が仲間はずれにされていると思い、映画が始まって15分後ぐらいに食事中の男二人を射殺してしまいます。これが衝撃的。

男は残った二人に取り押さえられ、手足を縛られます。残った二人のうち、男はすぐにでも殺そうとしますが、女は法によって裁くべきだと主張します。さて、どうしようかと二人が迷っているとき、映画自体も目的を失って停滞気味になりますが、流氷が溶けて小屋が水浸しになったりと、いくつかのエピソードがあって、最終的に二人で裁判をすることにします。被告はアイルランド人なので、イギリスの法で裁くことにし、ヴィクトリア女王の写真の下で裁判を行います。その結果が上記の写真につながるわけですが、最後に意外な結末が待っています。

射殺した男が一番男前なのがミソで、彼に同情してしまうので、見ている側としては三人に対して複雑な気持ちを抱きます。

女性は、「ウェスト氏の異常な冒険」にも出ていたアレクサンドラ・ホフーロワという現代的な女性で、クレショフの奥さんだそうです。彼女にも監督作品があり、後年、二人は国立映画学校で先生をしていたそうです。

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2012年4月 8日 (日)

「恐ろしき結婚」(1944, Experiment Perilous)

The RKO Story から。

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3月23日のフィルムノワール入門の「魔性の男」で言及した作品。RKO映画で、ジャック・ターナー監督、ヘディ・ラマー、ジョージ・ブレント、ポール・ルーカス主演。魔性の男というからには何らかの魅力があるのだろうけど、ポール・ルーカス演じるヘディ・ラマーの夫は、単なる年配の嫉妬深い夫にしか思えませんでした。

とても美人のヘディ・ラマーは「カサブランカ」と「ガス燈」を辞退したもったいない女優さんで、この二本に出演していれば、もっと有名になっていたかもしれません。もともと1933年の「春の調べ」という若い女性が全裸で泳ぐシーンで有名なチェコ映画で当の女性を演じたのか彼女でした。当時はヘディ・キースラーという名前でした。その映画のあと、ドイツの武器製造業の大金持ちと結婚しました。自分の妻の全裸を世界中で見られるのが我慢できなかった夫は世界中のプリントを回収しようとしましたが、それを達成しないうちに離婚してしまいました。で、ハリウッドに渡ってヘディ・ラマーになるわけです。

1903年冬、精神科医ジョージ・ブレントは、ニューヨークに向かう列車の中で、ある婦人と知り合いになる。ところが、彼女は弟ポール・ルーカスを訪ねたときに心臓マヒで亡くなってしまう。ブレントは、調査に乗り出すが、ルーカスの妻ヘディ・ラマーにのぼせてしまう。ルーカスはブレントに、彼女は頭が変になりつつあるし、5歳の息子も悪夢で苦しんでいると告白する。ブレントは彼女を助けようとする。

ポール・ルーカスもジョージ・ブレントも「ガス燈」のシャルル・ボワイエとジョセフ・コットンほど魅力的でない。唯一の救いはヘディ・ラマーが美人なことと、ブレントの友人の彫刻家アルバート・デッカーがいい味を出しているぐらい。

ただ、私が購入したのはアメリカの Warner Archive シリーズの一本で、このシリーズには字幕が付いていないので、会話の多いこの作品を十分に味わっているとは思えません。特にポール・ルーカスの狂気が伝わってこないのは、そのせいかもしれません。

「キャットピープル」「私はゾンビと歩いた」「過去を逃れて」「ベルリン特急」「Night of the Damon」などのジャック・ターナー監督の本では、クリス・フジワラという人が各作品を解説しているのが面白いです

たとえば、映画の舞台になっている不吉な屋敷のデザインに細心の注意が払われていて、アルバート・S・ダゴスティーノ率いるRKO美術部の良い見本になっているし、美術部の仕事は1940年代のRKO作品が一貫した外見を持っていることの重要な要因だそうです。

ほかにも、「ガス燈」、「レベッカ」「断崖」「ローラ殺人事件」に似ているが、それらと違う点、「キャットピープル」や「私はゾンビと歩いた」というヴァル・リュートン制作時代と違う点、ターナー作品によく出てくるテーマがヨーロッパとアメリカとの関係だということ、ターナーの父親のフランス人監督モーリス・トゥールヌールに対するコンプレックスなどなど。

近くの神社

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2012年3月24日 (土)

小津の「淑女と髭」(1931) 「青春の夢いまいづこ」(1932)

本日二本目の記事。

英国映画協会(BFI)が発売した小津安二郎のサイレント学生映画2枚組に入っている四本のうち、「若き日」(1929) と「落第はしたけれど」(1930) はすでに書いたので、残りの二本について。

1931年には「淑女と髭」「美人哀愁」「東京の合唱」と三本作っており、このうち「東京合唱」がキネ旬3位。すべて岡田時彦主演。岡田時彦は岡田茉莉子の父親で、彼女が1歳だった1934年に結核のために30歳で亡くなりました。

岡田時彦は青白い二枚目だと思っていたのですが、ここでは髭がむさくるしい蛮カラ学生で、彼の珍妙な演技が終始笑わせてくれます。彼は、おとなしそうな川崎弘子が不良モダンガールにカツアゲされているのを助ける。就職面接に行くと、その会社で川崎が働いており、あとで川崎が「髭をそらないから就職できないんですよ」と助言する。髭をそると二枚目なので、不良モダンガールや金持ちの同級生の妹が彼に色目を使うようになる。というお話で、最後は落ち着くところに落ち着く。

次に見た「青春の夢いまいづこ」が良かったので、「淑女と髭」の印象が薄くなりました。この1932年の小津作品は、「春は御婦人から」「生まれてはみたけれど」「青春の夢いまいづこ」「また逢ふ日まで」の四本。「生まれてはみたけれど」がキネ旬1位で、小津の代表作の一つ。「青春の夢いまいづこ」までがサイレント。

これは、とにかく江川宇礼雄がカッコいい。熟年のかっぷくのいいおじさんというイメージだったのですが、この30歳ぐらいのときは、ドイツ人とのハーフだから顔はバタくさいし、少々小柄だけど痩せていて、学生役を演じているときは不良っぽいので、ロックンローラーとか似合いそう。父親が大会社の社長で、父が急死したので大学を中退して若社長になるという設定もカッコいい。

彼には斎藤達雄ら三人のカンニング仲間がおり、彼らを自分の会社に雇うときも入社試験のカンニングを手伝うという、ひどい社長だが、親友たちに対する思いは熱い。

学校の近くには「落第はしたけれど」同様にパンを食べさせる軽食屋があり、そこの店員がまたしても田中絹代。可愛い!二人は仲が良かったけれど、江川の社長業が忙しかったので、しばらく会わないうちに、親友の斎藤達雄が絹代と結婚の約束をしている。

久しぶりに絹代と再会した江川は、彼女と結婚することを決意し、親友たちに報告する。彼に雇われている斎藤は、彼女と婚約していることを隠したまま、賛成する。あとで事実を知った江川は、「なんで本当のことを言ってくれなかったんだ」と泣きながら斎藤を何度も殴る。ほかの親友たちは「だって、お前に雇われているんだからしょうがないじゃないか」と斎藤をかばう。「若き日」でも「落第はしたけれど」でもダメ学生だったけど、183センチの斎藤の煮え切らなさが歯がゆい。

ラストは列車に乗って新婚旅行に出かける二人に対して会社のビルの屋上から笑顔で手を振る三人。似たシーンを戦後の小津作品で見た記憶があります。司葉子と誰かが屋上から手を振っているようなシーンでした。絹代と誰が結婚したかは伏せておいたほうがいいんでしょうか。

どちらにも飯田蝶子が出ています。前者では川崎弘子の母親、後者では斎藤達雄の母親。この頃彼女は30代半ばぐらいで、斎藤とは5つぐらいしか違わない。彼女の夫は、この頃ずっと小津作品を撮っていた撮影技師の茂原英雄で、夫婦で小津作品の撮影現場にいたわけだ。

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2012年3月19日 (月)

小津の「落第はしたけれど」(1930)

かたい「映画と感情」の前にやわらかい話題を書いていたのですが、過去に書いたことを調べるときに邪魔っけでしょうがない。それで、なるべく話題ごとに分けた記事にします。同じ日に書いた記事を見逃されたくないので、本日何番目の記事って書くことにします。で、本日二番目の記事。

ホットリップス、熱い唇

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金曜に書いたのと同じDVDから小津安二郎の「落第はしたけれど」は、この前見た「若き日」の翌年1930年の作品。小津は1929年に6本、1930年に7本作っていることから考えると、しまりのない作品になっていても許せるか。

前半は大学生たちがカンニングを工夫する話。後半は一番大丈夫だと思われていた斎藤達雄が落第して、ほかの仲間たちが卒業できるのだけど、就職先がなくってダラダラしている彼らと対照的に、斎藤は再び学生生活をエンジョイする話。仕事がなくって下宿でゴロゴロしている連中同様、映画自体も行き先を見失ってゴロゴロしているような感じ。ただ、5人ほどが同じ部屋で衣食住を共にしている様子は、なんか懐かしくて、うらやましい気がします(自分の大学時代も数名で誰かの下宿に泊まり込むってことはよくありましたが、毎日だとねえ)。

一番の収穫は、田中絹代です。可愛い。彼女が働くパンや牛乳を売る店は店内でも食べられて配達もするので、今ならバーガーショップって感じかな。顔だけ見てもわからないし、サイレントで声は聞こえないけど、仕草が30年後の「彼岸花」と同じ。この二十歳のころは、すでに蒲田の女王、栗島すみ子に迫る人気スターだったそうです。

The New Biographical Dictionary of Film の David Thomson も、彼女は美人じゃないけど、彼女の顔を尊ぶようになるって書いています。ガルボやデートリッヒは10年かそこらだし、ジョーン・クロフォードやベティ・デイビスだって25年ほどだ。リリアン・ギッシュやメアリー・ピックフォードは15年だ。だが、田中絹代は50年のキャリアを持ち、それに匹敵するのはキャサリン・ヘップバーンぐらいのものだと。戦後の溝口作品だけでも相当なものだし(「山椒大夫」は泣かずにいられない)、成瀬作品や木下作品だってあるじゃないか。

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2012年3月16日 (金)

小津安二郎の「若き日」(1929)

フィルムノワールの記事の冒頭に少し書こうと思ったら、長くなったので別記事にします。

英国映画協会(BFI)が発売した小津安二郎のサイレント学生映画2枚組から「若き日」(1929)というのを見ました。

結城一朗と斎藤達雄と松井潤子の三角関係のコメディかと思いきや、途中で意外な展開となり、最後はいい感じの友情物語となります。結城一朗という人を今まで知りませんでしたが、植木等のようにC調で図々しい様子が最後まで笑わせてくれます。斎藤達雄はその後の渋い感じではなくて、ロイド眼鏡をかけた気が弱そうでドジな学生で、結城一朗にふりまわされます。

斎藤が手のひらにペンキがついたのを隠したまま松井潤子と喫茶店に行って、松井が毛糸玉を作るのを手伝う場面がおかしいし、男が両手に毛糸をかけて好きな女性が毛玉を作っているって、けっこうときめきますね。しかも、その毛糸で自分の靴下を編んでくれるっていうんだから。

下宿を中心とした前半から、後半は一転してスキー場。そこへの行き帰りの電車内の結城と斎藤の友人関係もいい感じ。日守新一や笠智衆を含む学生たちがスキー場の旅館でコタツに入って、どうでもいいことを話すのは、戦後の「早春」などで仕事仲間が集まっているときの連帯感と通じるものがあります。

スキー場では純和風な松井が意外とモダン。映画全体にけっこうモダンなものが出てくる昭和4年。「第七天国」と質屋をかけた日本人にしかわからないギャグあり。飯田蝶子が松井のおばとして登場するけど、さほど見せ場はない。友人二人が同じ女性を好きになっていることがわかる場面があっけない。

ほかの収録作品は、「落第はしたけれど」(1930)、「淑女と髭」(1931)、「青春の夢いまいづこ」(1932)。さらに、「大学は出たけれど」の残存する11分。音楽は Camilleri Trio というクラリネット、ピアノ、チェロを演奏する女性三人

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2011年10月22日 (土)

Treasures III (その1)

本日は「夜明けの英国音楽」お休みです。

National Film Preservation Foundation が制作しているDVDシリーズ Treasures の第5弾が最近発売されました。"The West, 1898-1938" という副題がついていて、映画初期の西部に関する作品が3枚のDVDに40本収められています。

すでに手元にあるのですが、本日から見ていこうと思うのはこれじゃなくて、第3弾のこちら。社会派映画が4枚のDVDに48作品収められています(ほとんど短編です)。第1弾第2弾については私のサイトに書いていて、2007年に発売された第3弾も何か書こうと思いながら、4年の歳月が流れてしまいました。第6弾、第7弾と出てくるかもしれないので、今のうちに見ておかないと。ちなみに第4弾は前衛映画集です。

詳しいブックレットが付属しているので、それを頼りにしながら見ていきます。特に初期の短いものは、背景がわからないと、正直つらい。

1枚目のプログラム1は「改革された都市 The City Reformed」という題で、次の11本が収められています。今日はもう眠いので、ブックレットを読むのは次回からにして、本日は簡単なコメントのみ加えます。たぶん、明日も「日曜はトリュフォーだ!」をお休みして、これを続けると思います。

  1. The Black Hand (1906、11分)
    肉屋の幼い娘が誘拐される話。店内のシーンは舞台の正面から見ているような感じだし、カットもないので、退屈だけど、実際の街頭の撮影は歩道と車道が奥のほうまで見えるアングルのカメラ据えっぱなしで、多くの一般人が往来している中で少女を誘拐するのが新鮮。
  2. How They Rob Men in Chicago (1900、25秒)
    短すぎてよくわからない。ドキュメンタリーではなく、舞台の寸劇を見ているような感じ。
  3. The Voice of the Violin (1909、16分)
    これはしっかり作られた劇映画。貧しいバイオリン教師が生徒の女性と恋に落ちるが、身分が違うと女性の親に反対される。アナキスト集団に加わり、彼女の家を攻撃するが、途中で改心して、一味をやっつけ、娘と結ばれる。グリフィス監督。
  4. The Usuerer's Grip (1912、15分)
    幼い娘が病気になったため、家具を担保に高利貸からお金を借りるが、返せなくなる。職場に押しかけてきたために解雇されるが、新しい雇用主の親切で、苦境を切り抜けることができる。
  5. From the Submerged (1912、11分)
    これは良い作品。ホームレスになって公園で自殺しようとしていた男が女性に説得されて思いとどまり、食料配給所では仲間にやさしくしてもらう。死が近い金持ちの父親が新聞に掲載した「すべて許すから帰ってこい」というのを見つけ、父の遺産を継いで金持ちになり、恋人もできる。以前並んだ食料配給所に恋人と行くと、並んでいる人たちを見て恋人が「こっけいな人たち」と言ったので恋人に幻滅し、自分を助けてくれた女性を求めて公園を捜す。ホームレスになった女性が自殺しようとしているところを男は思いとどまらせ、結婚する。フランク・キャプラ監督、ジェームズ・スチュアート主演で映画化したら面白そう。たとえば、公園で女性が自殺しようとしているのと主人公が探し求めるのをもっと引き延ばせば、かなりのサスペンスが生まれてくる気がします。似た題材の作品がどこかにありそうな気がします。
  6. Hope - A Red Cross Seal Story (1912、14分)
    結核になった女性がこっそり恋人や家族から離れ、赤十字病院の世話を受けるドラマ。
  7. The Cost of Carelessness (1913、13分)
    子供や大人が交通事故に会う様子を再現したエピソード集で、交通事故に気をつけようという教育映画。
  8. Lights and Shadows in a City of a Million (1920、7分)
    孤児や障害者を補助する財団が寄付を求めるドキュメンタリーだったかな?
  9. 6,000,000 American Children...Are Not in School (1922、2分)
    短すぎて記憶に残らない。600万のアメリカの子供たちは学校に行っていない。
  10. The Soul of Youth (1920、80分)
    1枚目唯一の長編。孤児院から脱走した少年が、恩情的な判事や政治家に助けられて、自分の居場所を見つける話。クルー・ギャラガーかジョージ・ペパードを若くしたような少年に共感できるし、犬や新聞売りの少年との親交も心地良い。みんなハッピーになるラストだけど、新聞売りの友人だけが無視されるのが少々残念。
  11. A Call for Help from Sing Sing! (1934、3分)
    シンシン刑務所の所長が出てきて、少年犯罪を減らすよう呼びかけています。

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2011年10月16日 (日)

DVD: Went the Day Well

二日前にテレビの下3分の1が映らなくなったって書き増したが、昨日メーカーの修理屋さんが来て、液晶画面だけ取り換えてくれました。ちょうど1年ぐらいだったし、年2700円ぐらい払って5年間保証してくれるっていうサービスにも加入しているので、無料でした。

本日はトリュフォーお休みします。

1942年のイギリス映画で、イーリング・スタジオ製作の "Went the Day Well" って映画知っていますか。イギリスのアマゾンでDVDを購入しました。英国版は英語字幕が付いていないことが多いので、てっきりそう思っていいたら、英語字幕で見ることができて、ありがたかったです。

ドイツのパラシュート部隊がイギリス軍に扮装してイギリスの小さな村を占領するのですが、それに対して果敢に立ち向かう村人たち。前半は村民がドイツ部隊だということにいつ気づくのかで興味を持たせ、後半は教会に閉じ込められた村人たちがどうやって外部に知らせるかで興味を持たせてくれます。

50年代、60年代の映画なら、コメディ仕立てで村民たちが知恵を絞ってドイツ軍を出し抜くのでしょうが、戦時中なので村民たちは真っ向から立ち向かい、何人か犠牲になります。独軍の侵略に対して英国民が恐怖を感じていた時期もあったようですが、この映画が公開されるまでには、いくぶん収まっていたそうです。1975年に発行されたジャック・ヒギンズの「鷲(わし)は舞い降りた The Eagle Has Landed」というのが同じ題材を扱っていて、翌年にジョン・スタージェス監督、マイケル・ケイン、ドナルド・サザーランドら出演で映画化されています。

題名はジョン・マクスウェル・エドモンドによる碑文体の詩に由来しています。第一次大戦で戦死した兵士に捧げられたものです。
Went the day well?
We died and never knew.
But, well or ill,
Freedom, we died for you.
Went the day well?
「今日は順調だった?/我々は死んだので、わからない/でも、順調だったにせよ悪かったにせよ/自由のために我々は死んだ/今日は順調だった?」

原作はグレアム・グリーンの短編 "The Lieutenant Died Last" (「中尉が最後に死んだ-戦史に残らない 1940年の勝利」)。

監督はブラジル人のアルベルト・カバルカンティで、フランスで作った「時のほか何ものもなし」という1926年の短編前衛映画で有名です。イギリスのイーリング・スタジオでは4本監督してます。そのうちの一本は、オムニバスのホラー映画 "Dead of Night" の最後のエピソードで、マイケル・レッドグレーブが腹話術師を演じる一番怖いエピソードでした。

感動的な音楽はウィリアム・ウォルトン。撮影ウィルキー・クーパー。出演者は「黒水仙」のデビッド・ファラーや「大脱走」のジェームズ・ドナルドがドイツ兵の中にいますが、ほかはなじみのない人ばかり。

英国映画協会(BFI)がアップロードした予告編をYouTubeで見ることができます。IMDbでは最初だけ見ることができます

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