2014年1月16日 (木)

「モーガン先生のロマンス」 (1938)

1940年にアカデミー主演賞を受賞したジェームズ・スチュアート(「フィラデルフィア物語」)とジンジャー・ロジャーズ(「恋愛手帖」)が2年前に共演したロマンチックコメディ。なんで、こんなことを書くかというと、米盤DVDのオマケの予告編で二大アカデミー俳優の共演と宣伝されていたから。どうも二人が同時に主演賞を獲得したあと再上映されたらしい。日本では劇場未公開で、上記邦題はテレビ放映時のもの。米盤DVDは字幕なしで、細かい言葉のギャグはわからないけど、けっこう楽しめました。原題は "Vivacious Lady" です。

田舎の大学で植物学を教えている教授(スチュアート)がニューヨークのナイトクラブ歌手(ロジャーズ)に一目ぼれして、結婚するのだけど、大学学長をしている父親になかなか言い出せないために起こるテンヤワンヤ。父親役は、この手のスクリューボール・コメディでおなじみのチャールズ・コバーンだけど、いつもの好々爺ぶりではなく、厳格な学長を演じなければならないのがつらい。そのかわり、品があって優しそうな奥さんのビューラ・ボンディが少々羽目をはずしてロジャーズと踊っているところを夫に見つかってしまいます。あと、スチュアートの元婚約者フランシス・マーサーとロジャーズが平手打ちの応酬をするのも見もの。

監督はジョージ・スティーヴンズ。戦後の「陽のあたる場所」「シェーン」「ジャイアンツ」「アンネの日記」「偉大な生涯の物語」といった名作や大作でおなじみですが、私は30年代から40年代前半の軽いコメディのほうが好き。もともとハル・ローチのスタジオでローレルとハーディの短編のカメラマンや監督をしていました。1951年の「陽のあたる場所」以前の主な作品は次のとおり。

  • 乙女よ嘆くな (1935) Alice Adams
    貧しい家のキャサリン・ヘップバーンと金持ちフレッド・マクマレーのロマンチックコメディ
  • 愛の弾丸 (1935) Annie Oakley
    バーバラ・スタンウィックが演じるアニー・オークリーの実話。ヒットミュージカルの映画化でベティ・ハットンが主演した「アニーよ銃をとれ」(1950)のほうが有名なのかな。
  • 有頂天時代 (1936) Swing Time
    おなじみフレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズのコンビによるミュージカルコメディ
  • 偽装の女 (1937) Quality Street
    19世紀初頭の英国が舞台のキャサリン・ヘップバーン主演コメディ
  • 踊る騎士 (1937) A Damsel in Distress
    フレッド・アステア主演のミュージカルコメディ。相手はジンジャー・ロジャーズではなく、デビューしたてのジョーン・フォンテーンで、演技も踊りもダメ。そのかわり、ジョージ・バーンズとグレイシー・アレンの夫婦漫才コンビが笑わせてくれます。ガーシュインの音楽による、びっくりハウスでのミュージカル場面は一見の価値あり。PGウッドハウス原作。
  • モーガン先生のロマンス (1938) Vivacious Lady
  • ガンガ・ディン (1939) Gunga Din
    19世紀のインドを舞台にしたケイリー・グラント、ヴィクター・マクラグレン、ダグラス・フェアバンクス・ジュニア、サム・ジャフェによる冒険活劇の傑作
  • 病院の一夜 (1940) Vigil in the Night
    テレビ邦題。キャロル・ロンバード、ブライアン・アハーン、アン・シャーリー出演のドラマ。
  • 愛のアルバム (1941) Penny Serenade
    ケイリー・グラントとアイリーン・ダンのドラマ
  • 女性 No. 1 (1942) Woman of the Year
    スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘップバーンの名コンビ全9作の記念すべき一作目。ライバルの新聞記者同士のロマンチックコメディ。
  • The Talk of the Town (1942)
    ケイリー・グラント、ジーン・アーサー、ロナルド・コールマンのロマンチックコメディ
  • The More the Merrier (1943)
    戦時中混雑するワシントンで同じ部屋に住むことになるジーン・アーサーとジョエル・マクリーのロマンチックコメディ。好々爺のチャールズ・コバーンがアカデミー助演男優賞。
  • ママの想い出 (1948) I Remember Mama
    アイリーン・ダン主演のドラマ

【容赦しないわよ!】

001

2013年5月 3日 (金)

「ビリイ・ワイルダーの演出は〈一流〉だろうか?」

脚本家出身のビリー・ワイルダーは監督としてはあまり評価されていないというのが私の頭にインプットされていて、きっと演出を重視するカイエ・デュ・シネマ派の影響だろうとずっと思っていたのですが、少し前に小林信彦さんの「われわれはなぜ映画館にいるのか」(1975、晶文社) を古本で買ったら、その中に「ビリイ・ワイルダーの演出は<一流>だろうか?」というエッセイが収録されていて、このエッセイに強く影響されていることが40年ぶりに判明しました。

この本の半分ぐらいはキネ旬に連載していたエッセイなので、この本は当時購入しませんでした。私がキネ旬を購読し始めたのは1973年夏、私が高2のときで、本の初出一覧によると、このエッセイが掲載されたのは半年後の1974年2月上旬号だから、きっと夢中で読んでいたころです。それで、しっかりインプットされたのでしょう。どんなことが書いてあるか読んでみましょう。(小林氏のエッセイをもとに、補足したり修正したりしているので、興味ある方は、もとのエッセイを読むことをおススメします。)

「映画の80パーセントは脚本である。残りの20パーセントはカメラを適正な位置に置いたり、良い役者が充分に能力を発揮できるようにするだけだ。」とワイルダーが語っているそうなので、演出家として一流ではないと言われても、本人は「それで?」とか言いそうな気がします。この言葉の情報源は、Cinema One シリーズの Axel Madsen による "Billy Wilder" です。

ワイルダーはウィーン生まれだと書いていますが、本当はオーストリア=ハンガリー帝国のスハというところで、現在はポーランドに位置します。1930年ごろはドイツの映画会社ウーファのために脚本を書いていたのですが、ユダヤ系のためにフランスに亡命し、1933年にダニエル・ダリュー主演で「悪い種子」という自らの脚本を監督しています。

その後、アメリカに渡りますが、英語ができなかったので、ピーター・ローレらの助けを借りて、ハリウッド入りします。1938年にチャールズ・ブラケットと脚本チームを組んで以降、エルンスト・ルビッチ監督の「青髭八人目の妻」と「ニノチカ」、ハワード・ホークスの「教授と美女」などの傑作コメディを書きます。そして、1942年に「少佐と少女」で監督としてデビューします。

70年代から映画を見始めた私は、ビリー・ワイルダーといえば「お熱いのがお好き」や「アパートの鍵貸します」などのコメディがまず頭に浮かびますが、1932年生まれで(トリュフォーと同じ)、思春期に戦後を迎えた小林少年にとっては重厚深刻な作品の監督だったようです。最初に見たのは「失われた週末」でした。これは1945年度のアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞(レイ・ミランド)、脚本賞を獲得した作品で、アル中患者の絶望と再起を描いています。日本では1948年に公開され、1951年には「サンセット大通り」が公開されます。1944年の「深夜の告白」が公開されたのは1953年でした。

というように日本では、まず重層深刻な映画監督としてワイルダーは紹介されたのです。「深刻好きの日本人にはかえって幸い」だったと小林氏は書いています。

「サンセット大通り」は評判が高かったのに、なぜかこれを最後にブラケットとのコンビを解消します。小林氏は、「私が、ブラケット=ワイルダーの重層深刻映画に感じてきた<いかがわしさ>は、主としてブラケットの徹底した商魂にあったようである」と書いていますが、これは本当なんでしょうか。実際に解消前後のワイルダー作品を見てきた小林氏が感じたことなんだろうから、そうなのかもしれませんが。

次の「地獄の英雄」 (1951) は、痛烈なマスコミ批判で、ブラケット流の派手さがないために興行的に失敗したとあります。これは、少し前にDVDで見ましたが、けっこう強烈な映画で、それこそ「いかがわしさ」が感じられる映画でした。去年の7月13日に感想を書いています

続いて「第十七捕虜収容所」が公開され、小林氏は「こんな軽いものも作れるのか」と驚きます。以前にも「皇帝円舞曲」が公開されていましたが、「気の抜けたシャンペンみたい」だったから。しかし、もともと監督デビュー前はブラケットとのコンビで軽妙なコメディの脚本を書いていたわけだし、監督デビュー作の「少佐と少女」もコメディだったのです。でも、デビュー作は日本未公開だったし、それ以前の脚本作品もルビッチ作品とかホークス作品として片付けられていたのかもしれません。

下のフィルモグラフィーを見てわかるように、たしかに「第十七捕虜収容所」からガラッとコメディへと転換してますね。「第十七捕虜収容所」「麗しのサブリナ」「七年目の浮気」は、もともと舞台のヒット作品だし、ヘップバーンやモンローの主演によって、「興行的安定を約束された作品」だったそうです。「第17捕虜収容所」の主演もウィリアム・ホールデンというスターだったし、これでアカデミー主演男優賞を獲得しました。小林氏は、この三本の中では、「ハンフリー・ボガートがオードリー・ヘップバーンをエスコートする「麗しのサブリナ」が、何度、観なおしても面白い作品である」と書いています。

面白さの点では、アガサ・クリスティの舞台劇を映画化した「情婦」 (1958) がワイルダー全作品の中でも最高のひとつで、「うまい役者を必要とする」ワイルダーは、チャールズ・ロートンを迎えることで、「まさに快調の一語に尽きる」と小林氏はベタボメです。

ハワード・ホークスがヒッチコックとワイルダーを「真の職人」と呼んだため、この三人を「最後の職人」だと思っている人たちがいたそうです。ただ、大根に近い役者を主役にするヒッチコックやホークスと、ベテランを中心に据えるワイルダーとはずいぶん違うと小林氏は述べています。ヒッチコックとホークスは、脚本が悪くても、演出でかなりカバーしてしまうとも述べています。これは、カイエ・デュ・シネマの作家主義と考え方が似ていますね。だって、作家主義は別名「ヒッチコック=ホークス主義」なんだから。

「お熱いのがお好き」から「あなただけ今晩は」あたりが好調だったのは、ジャック・レモンと出会ったからだそうです。「ワン・ツー・スリー」はレモン主演じゃないのですが、ジェームズ・キャグニーがマシンガンのようにセリフをしゃべります。

1964年の「ねえ!キスしてよ」は見たことがないのですが、妻を交換してしまう艶笑喜劇で、ヨーロッパ風のストーリーです。この作品に対して、アメリカの批評家やカソリック教会が攻撃したそうです。小林氏は、ずっと口あたりのよい物語で観客を楽しませてきたけど、「地獄の英雄」やこの映画あたりがワイルダーの本音なんじゃないかと推測します。

このエッセイを書いたころ、小林氏はワイルダーの演出力を疑い始めます。ルビッチの「ニノチカ」を再見したからです。これはワイルダーが脚本として参加しているのですが、ルビッチがガルボとメルビン・ダグラスに演じさせている「男女のぞくぞくさせるような感じ」がワイルダーの演出には欠けていると思ったのです。

ワイルダーはルビッチの影響を受けており、「「麗しのサブリナ」や「情婦」のような方向で成功しているのではないかというのが私の考えで、そのことはルビッチの喜劇をもっと見なければ明らかにはなるまい」というのが結びの言葉。その後、小林氏はルビッチ作品をVHSやDVDでけっこう見ることができたはずですが、小林氏の最近のエッセイをあまり読んでいないから、確認できません。病院の待合室で週刊文春の連載にざっと目を通すぐらい。文庫本がけっこう出てそうな気がするので、いつか探してみます。

【チャールズ・ブラケットとの共同脚本作品】(完全じゃないかもしれません)

  1. 「青髭八人目の妻」 Bluebeard's Eighth Wife (1938)
    エルンスト・ルビッチ監督、ゲイリー・クーパー、クローデット・コルベール
  2. 「ミッドナイト」 Midnight (1939)
    ミッチェル・ライゼン監督、クローデット・コルベール、ドン・アメチ、ジョン・バリモア
  3. 「ニノチカ」 Ninotchka (1939)
    エルンスト・ルビッチ監督、グレタ・ガルボ、メルビン・ダグラス
  4. What a Life (1939)
    セオドア・リード監督、ジャッキー・クーパー、ベティ・フィールド
  5. 「囁きの木蔭」 Arise, My Love (1940)
    ミッチェル・ライゼン監督、クローデット・コルベール、レイ・ミランド
  6. Hold Back the Dawn (1941)
    ミッチェル・ライゼン監督、シャルル・ボワイエ、オリビア・デ・ハビランド、ポーレット・ゴダード
  7. 「教授と美女」 Ball of Fire (1941)
    ハワード・ホークス監督、ゲイリー・クーパー、バーバラ・スタンウィック

【監督作品】(すべての作品でワイルダーは脚本も書いています。「深夜の告白」を除いて、「サンセット大通り」までブラケットとの共同脚本。「昼下がりの情事」からはI.A.L.ダイアモンドとの共同脚本)

  1. 「少佐と少女」 The Major and the Minor (1942)
    レイ・ミランド、ジンジャー・ロジャーズ出演。5年前に少し書いています
  2. 「熱砂の秘密」Five Graves to Cairo (1943)
    フランチョット・トーン、アン・バクスター、エイキム・タミロフ出演。80年代にテレビで見たことがありますが、再見したい。日本盤が入手しやすいのだけど、少々高い。
  3. 「深夜の告白」Double Indemnity (1944)
    ワイルダー、レイモンド・チャンドラー脚本。フレッド・マクマレー、バーバラ・スタンウィック、エドワード・G・ロビンソン出演。フィルムノワールの名作。
  4. 「失われた週末」 The Lost Weekend (1945)
  5. 「皇帝円舞曲」 The Emperor Waltz (1947)
    ビング・クロスビー、ジョーン・フォンテーン出演のミュージカル・コメディ。1972年にTBSの月曜ロードショーで見ました。
  6. 「異国の出来事」 A Foreign Affair (1948)
    ジーン・アーサー、マレーネ・ディートリッヒ出演のコメディ。
  7. 「サンセット大通り」 Sunset Boulevard (1950)
    グロリア・スワンソン、ウィリアム・ホールデン
  8. 「地獄の英雄」 Ace in the Hole または The Big Carnival (1951)
    カーク・ダグラス
  9. 「第十七捕虜収容所」Stalag 17 (1952)
    ウィリアム・ホールデン
  10. 「麗しのサブリナ」 Sabrina (1954)
    オードリー・ヘップバーン、ハンフリー・ボガート、ウィリアム・ホールデン
  11. 「七年目の浮気」 The Seven Year Itch (1955)
    マリリン・モンロー、トム・イーウェル
  12. 「翼よ!あれが巴里の灯だ」 The Spirit of St. Louis (1956)
    ジェームズ・スチュアートがリンドバーグを演じています。
  13. 「昼下がりの情事」 Love in the Afternoon (1957)
    オードリー・ヘップバーン、ゲイリー・クーパー、モーリス・シュバリエ
  14. 「情婦」 Witness for the Prosecution (1958)
    タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、チャールズ・ロートン、エルザ・ランチェスター
  15. 「お熱いのがお好き」 Some Like It Hot (1959)
    ジャック・レモン、トニー・カーティス、マリリン・モンロー
  16. 「アパートの鍵貸します」 The Apartment (1960)
    ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレー
  17. 「ワン・ツー・スリー」 One, Two, Three (1961)
    ジェームズ・キャグニー、ホルスト・ブッフホルツ、パメラ・ティフィン
  18. 「あなただけ今晩は」 Irma la Douce (1963)
    ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン
  19. 「ねえ!キスしてよ」 Kiss Me, Stupid (1964)
    ディーン・マーティン、キム・ノバック、レイ・ウォルストン、フェリシア・ファー
  20. 「恋人よ帰れ!わが胸に」 The Fortune Cookie (1966)
    ジャック・レモン、ウォルター・マッソー
  21. 「シャーロック・ホームズの冒険」 The Private Life of Sherlock Holmes (1970)
    ロバート・スティーブンス、コリン・ブレイクリー
  22. 「お熱い夜をあなたに」 Avanti! (1972)
    ジャック・レモン、ジュリエット・ミルズ
  23. 「フロント・ページ」 (1974)
    ジャック・レモン、ウォルター・マッソー
  24. 「悲愁」 Fedora (1978)
    ウィリアム・ホールデン、マルト・ケラー、ヒルデガード・ネフ
  25. 「新・おかしな二人 バディ・バディ」 Buddy Buddy (1981)
    ジャック・レモン、ウォルター・マッソー

2013年4月26日 (金)

スクリューボールコメディ (33): 「ニノチカ」 (1939)

シャーリー・テンプルを除くと、1930年代のハリウッドに君臨した主演女優は、グレタ・ガルボ、ジョーン・クロフォード、ノーマ・シアラー、クローデット・コルベール、ベティ・デイビスでした。ガルボが主演した映画で最も興行的に成功したのは「グランド・ホテル」 (1932) で、その後のアメリカの興行成績はかんばしくなかたのですが、ヨーロッパで人気があったので、MGMは平凡な作品とのパッケージでガルボ作品を売り込むことができました。「クリチナ女王」 (1933)、「アンナ・カレニナ」 (1935)、「椿姫」 (1937) といった作品は批評家から好評を得たものの、1938年までには興行主たちから売れないスターと見られるようになりました。

そこで、MGMが採用した企画がルビッチのコメディにガルボを主演させる「ニノチカ」。「ガルボが笑う!」という宣伝文句によって大ヒットし、アカデミー主演女優賞にもノミネートされました(獲得したのは「風と共に去りぬ」のビビアン・リー)。実際には、「椿姫」など、以前の作品でもガルボは笑っているのですが、むしろコメディや庶民レベルへの転換を象徴した言葉でしょう。

もともとガルボは、ヨーロッパのどこかの国出身という謎めいた役柄ばかりで、「ニノチカ」でもロシアからの使者という役柄でした。第二次大戦のためにヨーロッパ市場に売り込むことができなくなったため、本格的にアメリカナイズされたコメディエンヌを目指さざるをえなくなり、次の「奥様は顔が二つ」(1941)では、ルンバを踊ったり、泳いだり、スキーをしたりと、アメリカ風なことを試みるのですが、今さらこの路線でクローデッド・コルベール、キャロル・ロンバード、アイリーン・ダンに打ち勝とうって無理な話。ガルボも乗り気じゃなかったし、興行的にも大失敗だったしで、結局、引退することになります。

「ニノチカ」のストーリーは次のとおり。貴族から没収した宝石を売りさばくためにソ連からパリに三名の男が派遣される。伯爵夫人(アイナ・クレア)は宝石を奪還しようと愛人のレオン(メルビン・ダグラス)に三人を丸めこませる。ソ連は、宝石売却がうまくいっていないようなので、ニノチカ(ガルボ)を送り込む。レオンはニノチカと出会い、二人は恋に落ちる。宝石を盗むことに成功した伯爵夫人は、ニノチカに、レオンと別れてソ連に戻ることを条件に宝石を戻すと申し出る。

まず、小さいころからエリート党員教育を施されたロボットのようなガルボがおかしい。以前も見たことがあるのですが、今回サイレント時代からのを10本ほど見たあとで、これを見ると、さらにおかしい。これまでの作品での気難しげで硬いガルボが恋に落ちて柔らかくなっていくというパターンが極端にまで推し進められていることが、それまでの作品を見てきたことで体感できるからです。しかも、このロボット風ガルボが可愛い。メルビン・ダグラスと語っているときに、少女時代に狙撃されたことがあるということを無表情に語り、髪をかきあげて、うなじをみせるあたり、いとおしくなります。

最初見たときもそうだったのですが、ガルボの笑いは、あまりに期待させられすぎて、少々ガッカリしました。庶民的なレストランでメルビンがガルボを必死で笑わそうと、いろんな小話をするのですが、「どこがおかしいの」という無表情な顔のままなので、メルビンが疲れて椅子に座ろうとすると、イスから転げ落ちて、それでガルボが笑うのです。むしろ、ここは、くだらない小話の数々をメルビルが披露するあたりのほうが面白いです。

このような場面がたっぷり盛り込まれた面白い脚本の原案はメルシオール・レンギールというハンガリー出身の劇作家で、ソ連の女性がパリで資本主義の喜びに屈服するというアイディアは彼が考えたもの。当初は、マックス・ラインハルトの息子が監督する予定でしたが、この数年前にガルボとルビッチが「いつか二人で映画を作りたいね」と語ったことがあり、ガルボがMGMにルビッチを推薦しました。ルビッチは、SNベールマン (Behrman) が書いた脚本が不満で、友人のウォルター・ライシュにゆだねます。さらに、チャールズ・ブラケットとビリー・ワイルダーが加わります。

ルビッチといえば「ルビッチ・タッチ」で有名ですが、30年代の初めごろから検閲が厳しくなると、ルビッチのような大人の世界を描くのがむずかしくなり、もっと子供っぽいドタバタで大人の事情を笑い飛ばしたスクリューボール・コメディが隆盛することになります。やっとルビッチも前作「青髭八人目の妻」あたりからスクリューボールを投げ始め、「ニノチカ」のあと、「街角」「生きるべきか死ぬべきか」「天国は待ってくれる」と、わかりやすい作品が続きます。

このころは、ルビッチが自分自身の演出を前面に押し出していないという意見もあるようで、脚本が面白いのか、演出が面白いのか、研究しがいのあることではあります。そんなことを考えたのは、小林信彦さんの「われわれはなぜ映画館にいるのか」(晶文社、1975)の中の「ビリイ・ワイルダーの演出は一流だろうか」というエッセイを最近読みなおしたからです。というわけで、来週はワイルダーのハリウッドでの監督デビュー作「少佐と少女」を取りあげるつもりです。

2013年4月19日 (金)

スクリューボールコメディ (32): 「悪魔とミス・ジョーンズ」「花嫁凱旋」

まったく関係ない二本立てだと思ったら、同じ助演女優のおばさんが出ていて、両作品で好演していました。スプリング・バイングトンという女優さんです。彼女については、のちほど。

まずは「悪魔とミス・ジョーンズ」 (1941, The Devil and Miss Jones)。日本では劇場公開されていないと思います。プロデューサーはフランク・ロスとノーマン・クラスナ、監督サム・ウッド、脚本ノーマン・クラスナ、出演ジーン・アーサー、ロバート・カミングス、チャールズ・コバーンら。配給はRKO。プロデューサーのフランク・ロスは当時ジーン・アーサーの旦那さんでした。

字幕がないので、細かいことまではわからないのですが、次のようなストーリー。あるデパートで組合を作る動きがあるのを知った経営者チャールズ・コバーンが様子をさぐろうと、靴売り場の店員になります。同僚のジーン・アーサー、ロバート・カミングス、スプリング・バイングトンと友だちになり、組合の集会に誘われたり、コニーアイランドの海水浴場に遊びに行ったりします。独身のコバーンは、やさしいバイングトンに恋心を抱くようになります。

チャールズ・コバーンがアカデミー助演男優賞にノミネートされましたが、彼が主役みたいなもの。上司に馬鹿にされたり、同僚に同情されたりしますが、正体がばれないように我慢します。アーサーとカミングスとバイングトンと四人で海水浴に行くことになったので、地下室に何百本もあるワインの中から最高級品を選んで持って行くと、みんなから「何だこれ」と変な顔をされ、「なけなしの小銭でわざわざ買ってくることないのに」と言われ、くさります。この若いカップルと年配のカップルがいい感じなので、何をしゃべっているのかよくわからなくても、労働組合という深刻な背景があっても、最後まで心地良く見ることができます。

撮影はハリー・ストラドリング、音楽ロイ・ウェブ。セットのデザインは、この二年前に「風と共に去りぬ」を担当したウィリアム・キャメロン・メンジーズ。白黒。92分。

【スプリング・バイングトン、チャールズ・コバーン、ジーン・アーサー】

Devilmissjones

二本目は「花嫁凱旋」(1936, Theodora Goes Wild)。今なら、「シオドーラのワイルドで行こう!」か「シオドーラ、ワイルドだろぅ?」という題名にしたいですね。何年か前にDVDを購入したのですが、なぜか今回見たほうが面白かったです。

主演のアイリーン・ダンはメロドラマもミュージカルもできる才能ある女優さんですが、抜群に面白いコメディエンヌでもあって、この翌年の「新婚道中記」はスクリューボールコメディの代表作です。良妻賢母型に見えますが、色気や活力を秘めていて、彼女をスクリューボール・コメディの女王と呼びたくなりました。「ママのご帰還」も面白かったなあ。

田舎町で、お固い年輩女性たちに囲まれて暮らしているシオドーラ(アイリーン・ダン)は、きわどい小説でベストセラー作家になっているのですが、まわりには秘密にしています。その小説のイラストレーター、マイケル(メルビン・ダグラス)は都会的な気ままな男で、シオドーラが住む町を探し、彼女が叔母二人と一緒に住む家の庭師になって、彼女を困らせますが、いつしか二人の間に恋が芽生えます。ところが肝心なときに逃げてしまったので、ニューヨークの彼のアパートに行ってみると、彼には別居状態の妻がいることがわかります。

どこかの時点でカチンときたシオドーラは、自分の出身地をばらし、派手な衣装を着てメディアのインタビューに応じ、マイケルとの仲もあからさまにして、田舎町のお固いおばさんたち、出版社の社長、都会の自由人ぶったマイケルらをギャフンと言わせます。彼女のエネルギーはとどまることを知らず、いったいどこで収拾がつくのだろうと思ってしまうほどです。

スプリング・バイングトンが演じているのは、せんさく好きな田舎町のおばさんで、おばさんたちの中で一番目立つ役柄でした。1933年の「若草物語」でキャサリン・ヘップバーンらの母親を演じ、1938年のフランク・キャプラの「我が家の楽園」でアカデミー助演女優賞にノミネートされました。

「花嫁凱旋」はコロンビア作品で、プロデューサーはエベレット・リスキン(キャプラの脚本家ロバート・リスキンの兄)、原作メアリー・マッカーシー、脚本シドニー・バックマン、監督リチャード・ボレスラウスキー、撮影ジョセフ・ウォーカー(キャプラのお気に入り撮影監督で「或る夜の出来事」も担当)。トーマス・ミッチェルも出演しており、シオドーラの活躍を面白がる田舎新聞の編集長を演じています。白黒94分。

【シオドーラと町のおばさんたち】

Theodora

2013年4月12日 (金)

スクリューボールコメディ (31): トレイシーとヘップバーン

先週書いたスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘップバーンのコンビ作9本のうち、ドタバタなロマンチックコメディは「女性No.1」、「Without Love」、「アダム氏とマダム」、「パットとマイク」(1952)、「おー!ウーマンリブ」(1957)。最後のみニ十世紀フォックスで、それ以外はMGM。

「女性No.1」 (1942) Woman of the Year
ジョージ・スティーブンス監督。ジョセフ・L・マンキーウィッツがプロデューサー。二人の初めての共演作。サム(トレイシー)はスポーツ記者、テス(ヘップバーン)は政治記者。二人は結婚するが、その年の女性ナンバーワンに選ばれるほど忙しいテスにサムはウンザリ。テスは、英語以外に5か国語を話すことができ、ギリシャの亡命少年を養子にするので、さらにウンザリ。最後はテスが折れて、料理に挑戦するのだけど、悲惨な結果となります。IMDbのトリビアによると、共同プロデューサー的な存在だったヘップバーンは、トレイシーをリラックスさせるために、いつものジョージ・キューカーではなく、野球の話ができる男性的なジョージ・スティーブンスを選んだそうです。ジョージ・キューカーはゲイだということを公言しており、たぶん、そのために女優さんから演技を引き出すのがうまい。キューカーは、その後、「火の女」「アダム氏とマダム」「パットとマイク」で監督を務め、トレイシーと仲良くなったそうです。

「Without Love」 (1945)
ハロルド・S・バケットという監督。第二次大戦中の混雑したワシントンは、ジョージ・スティーブンス監督、ジーン・アーサー、ジョエル・マクリー主演の「The More The Merrier」でも描かれていましたが、ここでは、パット(トレイシー)がジェットパイロット用の酸素マスクを開発する科学者で、ジェイミー(ヘップバーン)の屋敷の地下を借りて、実験します。何かの都合で二人は愛のないままに結婚をしますが、次第に愛が芽生えていくという話。原作フィル・バリー、脚本ドナルド・オグデン・スチュアートは、ヒット作「フィラデルフィア物語」(1940)と同じ(ジョージ・キューカー監督、ケイリー・グラント、ヘップバーン、ジェームズ・スチュアート主演)。ヘップバーンが助手として鉄製のヘルメットをかぶり、二人で実験するあたり笑わせるし、助演のキーナン・ウィンとルシル・ボール(「ルーシー・ショー」)も笑わせてくれます。

「アダム氏とマダム」 (1949) Adam's Rib
このコンビの代表作。ジョージ・キューカー監督。浮気している夫を射殺しようとした妻をめぐって弁護士夫婦が、事件の原告と被告である夫婦の各々を弁護し、それが自分たちの夫婦生活にも反映されるという話。脚本はルス・ゴードンとガーソン・ケニンの夫婦という、なんだか夫婦だらけの映画(トレイシーとヘップバーンは実生活で夫婦になったことはないけど)。ジュディ・ホリディが殺人未遂の妻を演じていて、印象的。この翌年、"Born Yesterday" で、アカデミー主演女優賞をもらいます。旦那は、「七年目の浮気」や「女はそれを我慢できない」の三枚目トム・イーウェルで、その浮気相手はジーン・ヘイゲン(「雨に唄えば」(1952)でデビー・レイノルズが吹替えをするトーキー向きではないサイレント女優役が有名)。ヘップバーンに言い寄るデビッド・ウェインを含めて、みんな演技がうまい。最初の射殺未遂シーンから目が釘づけで、異様な感じのホリディ、ニューヨークロケ、目をつむってピストルを撃つ様子など、なんかリアル。ジョージ・キューカーは、役者の演技を大事にする監督さんのようで、あまりカット割りをせず、ワンショットが長いのが特徴。もちろん、みんな演技が上手だからできることです。

「パットとマイク」 (1952) Pat and Mike
日本では劇場未公開。これもジョージ・キューカー監督。マンネリに陥ることなく、監督も主演コンビもリラックスして楽しんでいるように見える軽妙な作品。ヘップバーンがゴルフ、テニス、なんでもござれの女性スポーツ選手。トレイシーが丹下段平みたいなスポーツプロモーターで、本物じゃないのかと思うぐらいよく似合っています。ヘップバーンが出場するゴルフやテニスの試合も本格的で、本物の有名選手が対戦相手としてゲスト出演しているらしいです。この作品も長回しが多く、自由な感じがします。特に、林の中をヘップバーンがジョギングし、トレイシーが自転車に乗って会話するのを移動撮影でとらえた長回しのシーンが好きです。フィルムノワールのタフガイか戦争映画の鬼軍曹のイメージが強いアルド・レイが単細胞のボクサーを演じているのも愉快だし、チャールズ・ブロンソンとチャック・コナーズがチョイ役で出演しているのも楽しい。MGMの白黒コメディ。脚本は前作に引き続き、ルース・ゴードンとガーソン・ケニンの夫婦コンビ。ルース・ゴードンは1970年前後に「ローズマリーの赤ちゃん」や「少年は虹を渡る」の老女役で話題になりました。1968年の「ローズマリーの赤ちゃん」でアカデミー助演女優賞をもらったんですね。この脚本家コンビについては、そのうち調べたいです。

「おー!ウーマンリブ」 (1957) Desk Set
これも日本では劇場未公開ですが、1970年代にテレビで放映されたのを見たことがあります。これまでは白黒スタンダードでしたが、これはカラーでワイドスクリーンです。だから、テレビだと左右がカットされているし、色も少々あせていて、古臭い感じでした。DVDだと、カラーがきれいだし、ワイドスクリーンだし、大会社がコンピューターを導入する話だしで、意外と新しさを感じました。コンピューターはとんでもなくでっかい代物ですが、このころからもうあったのですね。スペンサー・トレイシーがコンピューター導入するために派遣され、ヘップバーンをチーフとする資料課の女性従業員数名は解雇されるんじゃないかと不安がります。でも、みんな社内で楽しくやっているばっかりで、チットも話が先に進まなくて、イライラします。結局、資料課全員に解雇通知が配布され、みんなショゲますが、社長にまで解雇通知が配布されたために、コンピューターのミスだと判明。もともと資料課スタッフが解雇されるなんて予定はなかったのです。トレイシーが年をとりすぎているので、最後にキャサリン・ヘップバーンが若々しい恋人ギグ・ヤングと別れて、トレイシーと一緒になる理由がわかりません。でも、全体的に心地良い作品ではあります。資料課のスタッフの一員としてジョーン・ブロンデルが出演。アイダ・ムーアという小柄で可愛いお婆さんも登場。

2013年3月23日 (土)

スクリューボールコメディ (30): 「歩け走るな!」 (1966)、「The More the Merrier」 (1943)

クライテリオンからのメールで、今日は黒澤明の誕生日だと知らされました。1910年生まれで、生きていれば103歳。1998年に88歳でお亡くなりになりました。「エアポート77」を友人たちと銀座で見た帰りの地下鉄で、ドアのそばに一人で立っているのをお見かけしたことがあります。大きかった。大学時代、馬術部と映研をかけもちしていた友人は、大の黒澤ファンで、馬を連れて「乱」のエキストラとして出演しました。どこに写っているのかわかりませんが。

「歩け走るな!」は原題が「Walk, Don't Run」で、東京オリンピックのころの東京が舞台なら、当然ベンチャーズがテーマ曲だと思ってしまうでしょう。ところが、ヒット曲「蜜の味」が映画「蜜の味」でかからないほどの肩すかし。そのかわりに、主演のケイリー・グラントがコーヒーをわかすときに、自らが3年前に主演した「シャレード」のテーマ曲を口笛で吹きます。もちろん、「シャレード」はヘンリー・マンシー二作曲なんですが、「歩け走るな!」全体の音楽を担当しているのはクインシー・ジョーンズ。彼が映画音楽を担当した初期のもので、それ以前にはシドニー・ルメット監督の「質屋」 (1964) があるぐらい。

実業家ケイリー・グラントが予定より二日早く東京に来てしまい、オリンピックでホテルが満員なものだから、泊まる場所がない。大使館の掲示板で「同居人を求む」というメッセージを見つけたので、サマンサ・エッガーのアパートに転がり込む。女性のルームメイトを求めていたサマンサはプンプン。グラントはオリンピックに出場するジム・ハットンと知り合いになり、彼も同居させるので、さらにサマンサはプンプン。でも、いつしかサマンサとハットンの間に恋が芽生え、グラントは二人の恋のキューピットになる。

コロンビアのカラーのワイドスクリーン作品で、東京を舞台にしたハリウッドの珍品かと思いきや、これがけっこう面白い。グラントはハリウッドのスタジオから一歩も出ないのかと思っていたら、ちゃんと来日して、銀座や新橋を歩いています。アンソニー・パーキンスからサイコ的要素を抜いた長身のジム・ハットンは、「ボーイハント」や「ガールハント」でコメディリリーフ的な役柄を難なくこなしていた明朗なアメリカ青年ですが、オリンピックの何の選手かなかなか明かさない。ネタをばらせば、競歩選手で、題名で気づくべきでした。今のオリンピックだと作られたコースをぐるぐる回るだけだと思うのですが、この映画では東京マラソンみたいに実際に市街で競歩しています。ハットンに話があるグラントはシャツとパンツ姿になって選手のふりをしてハットンに用件を話します。そのあと、下着姿のままバスに乗り込むグラントのおかしさ。

日本人がしゃべる日本語もしっかりしているし(そうでない映画が多い)、いつもアパートの階段に座っている10歳ぐらいの兄妹の味づけも気がきいています。グラントが東京湾のフェリーにのったとき、テーブルの前に座っている子供からミカンをもらって、むぐあたりも、とても自然で微笑ましい。

サマンサの友人の日本人女性の家を訪問して、両親と会うあたりはぎこちないけど、子供たちがテレビで見ている西部劇がアンソニー・マン監督の「ララミーから来た男」で、ジェームズ・スチュアートのアップが出てきます。グラントとスチュアートは友人なのかな?

唯一、銭湯の描き方が変。なんで、向こうの人たちは風呂の描き方が下手なんだろう。普通の男湯だと思うのですが、なぜか短パン姿の女性が何人かいて、グラントとハットンの背中をゴシゴシやっています。この翌年の「007は二度死ぬ」でも変な風呂のシーンがあったような気がします。同じころにコーネル・ワイルドが監督主演した「ビーチレッド戦記」は日本兵にも敬意を表しているのですが、日本兵の隊長が家族のことを思い出すとき、なぜか妻と子供と三人で風呂に入っている光景。よっぽど日本のお風呂文化は珍しいらしい。

ケイリー・グラントは60すぎでしたが、これが最後の作品になりました。ここでも自分が恋愛する役じゃなかったように、映画の中で自分が恋愛できなくなったらおしまいだと思っていたらしいです。「北北西に進路を取れ」の1959年にマネー・メイキング・スターの2位になってから、ずっと3位から6位あたりに入っていたという人気ぶりだったのですが。でも、アメリカ映画の新しい波がおしよせそうなときにやめるという、うまい選択だったのかもしれません。残りの20年の人生は悠々自適に過ごされたのでしょう。

監督は、「イースター・パレード」や「上流社会」のチャールズ・ウォルターズ。撮影は「女だけの都」「断崖」「大砂塵」「マイ・フェア・レディ」などのハリー・ストラドリング。

アメリカのDVDで、ソニーが発売しているからか、日本語字幕で見ることもできます。ただ、地域コードにご用心。

「歩け走るな!」が意外と面白かった理由の一つは、傑作コメディのリメイクだったので、脚本がしっかりしていたからでしょう。もとの作品は1943年の「The More the Merrier」で、「いっぱいいたほうが楽しい」という意味でしょう。こっちは戦争中のワシントンが舞台で、実際に政府関係の人であふれかえっていたようです。

これもコロンビア映画で、白黒のスタンダードサイズ。

太っちょの好爺チャールズ・コバーンがジーン・アーサーのアパートに同居して、さらにジョエル・マクリーが転がり込んできます。ジーン・アーサーはもうキイキイ。コバーンが転がり込んできたとき、アーサーが朝のスケジュール(シャワー、朝食、牛乳をとりに行く、など)を分刻みで教え、コバーンがてんやわんやになる爆笑場面は、「歩け走るな!」でも繰り返されていますが、こっちはもう抱腹絶倒。

休日にアパートの住人たちが屋上で水着姿になってノンビリしているという楽しいシーンがありますが、もしかしたら日本のお風呂のシーンみたいに、実際にはありえない光景なのかも。

ジーン・アーサーとジョエル・マクリーの間に恋が芽生える感じは、やはり古い時代のほうがうまい。もっとも、ジーン・アーサーは40すぎで、少々無理があるかなあ。

「歩け走るな!」で飛ばしすぎたのか、この映画について書くことがなくなってきました。2010年3月15日にも書いているので、そちらもどうぞ

とにかくチャールズ・コバーンの演技が絶品で、以前にも書いていますが、アカデミー助演男優賞をもらいました。ほかにも、作品賞、主演女優賞、監督賞、原案賞、脚本賞という主要部門にノミネートされたヒット作なのです。

監督はジョージ・スティーブンズで、戦後の「陽のあたる場所」「シェーン」「ジャイアンツ」「アンネの日記」「偉大な生涯の物語」といった大作や名作しか知らなかったから、ずっと生真面目で退屈そうな人だと思い込んでいたので、のちに30年代の「乙女よ嘆くな」(キャサリン・ヘップバーンとフレッド・マクマレー)、「有頂天時代」(アステアとロジャーズ)、「踊る騎士」(アステアとジョージ・バーンズ/グレイシー・アレンの夫婦漫才コンビ)、「ガンガ・ディン」(ケイリー・グラント)などの軽妙な作品を知ってビックリ。もともとは、ハル・ローチのもとでローレルとハーディのカメラマン、脚本家、監督からスタートした人なのです。

アメリカのDVDで、こっちは何の字幕もなし。見れるだけでありがたい。

Themorethemerrier

Walkdontrun

2013年3月 8日 (金)

スクリューボールコメディ (29): 「青髭八人目の妻」と「教授と美女」

ゲイリー・クーパー主演で組んだ二本立てだったのに、なんと、両方ともビリー・ワイルダーとチャールズ・ブラケットの脚本でした。オーストリア生まれのワイルダーは、当初ドイツで脚本を書いていましたが、ヒットラー台頭のためにフランスに逃れ、1934年に「悪い種子」という作品を監督し、同年ハリウッド入りし、1942年の「少佐と少女」でハリウッドでの監督デビューをするまで、脚本を書いていました。チャールズ・ブラケットと一緒に脚本を書き始めたのが1938年の「青髭八人目の妻」で、以後「ミッドナイト」「ニノチカ」「教授と美女」などを共同で書き、ワイルダーが監督になってからも脚本を共同で書いていますが、評価の高い1950年の「サンセット大通り」を最後に、なぜかコンビを解消しています。

1938年の「青髭八人目の妻」(Bluebeard's Eighth Wife)はエルンスト・ルビッチ監督のパラマウント映画で、クーパーのお相手はクローデット・コルベール。1941年の「教授と美女」(Ball of Fire)はハワード・ホークス監督、バーバラ・スタンウィック共演。サミュエル・ゴールドウィン制作、RKO配給。

ワイルダーとブラケットのコンビのおかげか、両作品とも発端が抜群に面白い。「青髭八人目の妻」では、アメリカの実業家ゲイリー・クーパーがパリのデパートでパジャマの上だけ半値で欲しいと言う。店員が断ると、「パジャマの上だけで寝ている男もたくさんいるのに、準備していないなんてけしからん」とクーパーが怒る。前例がないために店員はあわてる。店員が上司に聞いてみると、その上司も上司にたずねる。結局、デパートのトップの判断を仰ぐことになるが、トップはまだベットの中で、電話に出るために彼が起き上がると自分自身パジャマの上しか着ていないくせに、「上だけの販売は許さん」と電話で断る。

売り場での様子を見ていたクローデット・コルベールが「パジャマの下だけほしいので、一緒に買って、分けましょう」と提案する。男性用のパジャマの下だけを購入する女性って、堅物のクーパーでさえ興味津々。「夫のためか」とたずねると「独身だ」と答えるし、「叔父さんのためか」とたずねると「叔父さんならパイプを贈る」と答える。誰のために買ったのかはすぐに判明しますが、特にここで書くほどのことではない。

コルベールの父親は、ルビッチ作品やアステア=ロジャーズ作品でおなじみのエドワード・エベレット・ホートンで、お金がないから、娘に金持ちのクーパーとの結婚を勧め、二人は結婚することにしますが、親族が集まって結婚写真を撮影する直前になって、「以前7人の女性と結婚したことがある」とコルベールにしゃべります。クーパーは特に何とも思ってないのですが、コルベールはあきれて、結婚をとりやめにしようとしますが、父の説得で、思い直します。

二人はチェコスロバキアに新婚旅行に行きます。なぜチェコスロバキアなのかもバカバカしい理由があるのですが、めんどくさいので、ここには書きません。旅行中もケンカばかりしていたようで、帰ってからも同じホテルの同じ階で別居状態。ここから、スクリューボールコメディお得意の男女の主導権争いが始まります。クーパーが私立探偵を雇ってコルベールを見張らせると、コルベールがその私立探偵を利用してクーパーにギャフンと言わせようとするあたりもおかしいです。私立探偵は尾行をコルベールに気づかれていないと思っているのに、実はコルベールが私立探偵を尾行していて、「あんたの奥さんを泣かせたくないなら、角の店屋の娘と仲良くするのはやめなさいよ」というようなことをコルベールが私立探偵に説教して、自分の味方につけるのが最高!

尾行するといっても、トリュフォーの「夜霧の恋人たち」のように、実際のパリを舞台にしているわけでなく、セリフでわかるだけです。外の風景が出てくる場面もありますが、すべてスクリーンプロセスで処理しており、スターたちはスタジオから一歩も外に出ていないと思います。コルベールが水着姿を見せる海水浴場でさえ、そうなのです!

デビッド・ニーブンがクーパーの部下の役で出演して、三角関係にまで至らない軽い役柄なのが物足りないですが、いくつかの面白い場面でうまく使われています。ルビッチの演技指導のおかげか、クーパーはコメディ演技に奮闘していて、悪くないです。しかし、何といってもコルベールの映画で、大人の色気が悩ましい。特に大胆なシーンはないのに、桃色の雰囲気が充満し、最後は爆発しそうになるのはルビッチならでは。白黒映画ですけど。

さて、「教授と美女」は、8名ほどの学者が都会の屋敷にこもって、ブリタニカみたいな百科事典を作ろうとしているところから始まります。ずっと本の虫で女っ気なしの初老男性ばかりの中にゲイリー・クーパーがいてもおかしくないのが面白い。クーパーにはシャイな感じがあるからで、これがケイリー・グラントだとウソくさい。

クーパーは言語学者で、スラングの研究をしにキャバレーに行くと、バーバラ・スタンウィックが歌っています。彼女はギャングの親分ダナ・アンドリューズの情婦ですが、ギャングが地方検事に追われているので、スタンウィックはセクシーな舞台衣装のまま、学者たちの屋敷に逃げ込みます。非常に場違いな感じですが、学者たちは白雪姫に対する七人の小人みたいなもので、興味の持ち方が子供っぽくて、大人っぽい色目を使う奴がいなくて、みんなクーパーを応援するのが心地良い。

のちにフィルムノワールで名演を見せるダナ・アンドリュースと手下のダン・デュリエという配役がぜいたく。フランク・キャプラの「ポケット一杯の幸福」のような人情味のあるギャングではないけれど、あまり強くなさそうで、さほどクーパーたちに対する脅威にならないのも心地良い。

映画全体が心地良いのです。ハワード・ホークスの「特急ニ十世紀」「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」のように観客がひいてしまうほどのエキセントリックさがないのです。その分、傑作じゃないかもしれませんが、それらよりも好きです。

2013年3月 1日 (金)

スクリューボールコメディ (28): ジーン・アーサーの「街は春風」と「Too Many Husbands」

ジーン・アーサーは、フランク・キャプラの映画でゲイリー・クーパーやジェームズ・スチュアートを応援する女性なら好感が持てるのですが、混乱した状況の中で、どうしていいのかわからない主人公を演じている作品は好きじゃない。残念ながら、今回はそんな作品二本。

「街は春風」の原題は「Easy Living」で1937年のパラマウントえいが。「街は春風」という邦題から、さわやかな恋愛映画を想像したら大間違い。とても騒々しいコメディで、私はついていけない。発端は面白い。アメリカで三番目に金持ちの銀行家エドワード・アーノルドが浪費家の妻とケンカして、高級な毛皮をマンションの高い階から投げ落とす。すると、屋根のない二階建てのバスに乗っているジーン・アーサーの顔にスッポリはまる。

すぐアーサーはバスから降りて、アーノルドに返そうとするが、アーノルドは「あげる」と言う。それを着たまま勤め先の慈善的な出版社に行くと、誤解され、評判が落ちるからと解雇される。銀行家に取り入ろうとするホテルのオーナーも彼女を銀行家の愛人だと誤解して、彼女に豪華な部屋をあてがう。豪華な部屋だけど冷蔵庫は空っぽなので、簡易食堂に行くと、銀行家の息子レイ・ミランドがバイトをやっており、ほとんど無一文の彼女に無銭飲食の手助けをするが、それがばれて、解雇される。彼女はミランドをホテルの部屋に連れてくる。

簡易食堂は、お金を入れると料理を取り出すことができる小窓がいっぱい並んでいるセルフサービスの店で、これは面白いんだけど、ミランドがアーサーに無料で開けてやるのがばれて、ケンカを始めると、スイッチを押してしまい、すべての小窓が開いてしまいます。それで、店内の客も、外の人も、それに群がり、大騒ぎになり、皿もガチャガチャ割れます。こういうのが、小心者の私は楽しめないのです。これだけ損害を被れば、あの店はつぶれるかもしれないとか、主人公の二人はさっさと逃げるけれど、責任はないのかとか考えてしまうのです。

太って威厳のあるエドワード・アーノルドは金持ちの銀行家にぴったりだけど、終始怒鳴ってばかりで、血管が切れるんじゃないかと思ってしまいます。実際、会話に中にも血圧を心配している個所があります。私を含めて、高血圧症の人は映画を見るだけで血圧が上がりそう。

その後も、金持ちの愛人だと誤解されているアーサーに高価なものを買ってもらおうとする商売人たちがホテルの部屋に押しかけたり、株式に関してひと騒動があったり、けたたましいったらありゃしない。

脚本を書いたのはプレストン・スタージェスで、監督になってからの「レディ・イヴ」(1941)なんか、もっと洒落ていると思うのだけど、やっぱりアメリカ的な狂気を秘めていて、いつでも爆発しそうな感じです。監督はミッチェル・ライゼンで、キャロル・ロンバードの「春を手さぐる」(1935)やクローデット・コルベールの「ミッドナイト」(1939)は軽妙でした。

ポーリン・ケイル女史をはじめ、アメリカでは評価が高いらしいけど、私は好きになれない。米盤DVDで、英語字幕で見ることができます。

「Too Many Husbands」は1940年のコロンビア映画で、たぶん日本未公開。原作はサマセット・モームの戯曲、脚本クロード・ビニヨン、主演ジーン・アーサー、フレッド・マクマレー、メルビン・ダグラス。DVDは米盤2枚組「Icons of Screwball Comedy, Volume 1」。英語字幕で見ることができます。

もう亡くなっていたと思っていた夫が帰ってきたことからテンヤワンヤになる話。同じ年、RKOが、亡くなっていたと思っていた妻が帰ってきたことからテンヤワンヤになる話をアイリーン・ダンとケイリー・グラント主演で「ママのご帰還」として作っているけれど、偶然なのか。だいたい同じ時期に公開されているけれど、「Too Many Husbands」はモームの戯曲が原作で、それ以前に上演されていたのだろうから、「ママのご帰還」のほうが戯曲をヒントにしたのか。しかし、もともと19世紀のテニソンの物語詩「イノック・アーデン」があるわけだし、よくある発端で、そのあとどのように展開していくかが問題。

「ママのご帰還」は、二人の女性の間で奮闘するグラントが傑作だったし、アイリーン・ダンは一人で孤島に何年間もいたわけではなく、ランドルフ・スコット演じるタフガイと一緒だったというのが途中からわかって、ますます面白くなるのですが、ここでは、マクマレーが帰ってみると、親友のメルビン・ダグラスが妻ジーン・アーサーと結婚しているということが早々にわかるし、そのあと、特に面白い展開がないので、次第にだれてきます。そもそも、ジーン・アーサーがどちらかに決めれば、話はすぐに解決するのに、なんかグズグズしちゃって、イライラしてきます。配役から、どちらのもとに戻るか、なんとなく察しがつくので、なおさらです。

前の上司マクマレーと今の上司ダグラスに仕えている妄想癖のある秘書が面白いです。「これまで自分が愛した二人の男をあなたにとられた」とジーンに言って、自分との結婚生活を想像することでなんとか自分を保ってきたと打ち明けます。ジーンが「想像するだけなら害がないから」と言うと、ウットリした顔で上のほうを眺めているので、ジーンが「今、何を考えているの」とたずねると、「あなたのかわりにマクマレーと新婚旅行に出かけたことを思い出しているの」と言います。そのあと、まるでジーンが本当に体験したことを彼女も体験したかのように、「マクマレーが亡くなったあと、ダグラスがやさしくしてくれたの」と言うと、ジーンもウットリした顔になって、同じ経験を共有した者同士の会話みたいになります。このシーンが面白かっただけに、この秘書があとから登場しないのが残念です。

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2013年2月15日 (金)

スクリューボールコメディ (27): 「クリスマス・イン・コネチカット」 Christmas in Connecticut

昨日のチョコなしの効用で一つ忘れてました。「虫歯になりにくい」。来週は三か月に一度の歯医者さん通い。歯を赤く染められ、磨き方を教えられ、何かされ、何かされ(目をつむっているのでわからない)、口をカチカチさせてカミ合わせを調べられ、毎回少しずつ削られます。そのうち歯医者さんで歯がなくなってしまうでしょう。自分へのごほうびとして、甘い物を買って帰りま~~す。

「クリスマス・イン・コネチカット」が収録されているのはアメリカで発売されている「クリスマス・キャロル」「少年の町」「歌え!ドミニク」との廉価DVDセット

バーバラ・スタンウィック主演のコメディで、白黒ワーナー映画。終戦間近の1945年7月にアメリカで公開されており、たぶん日本では劇場未公開ですが、テレビで放映されたことはあるかもしれません。

話が奇抜なので、スクリューボール・コメディなんでしょう。二週間ぐらい漂流して助けられた海兵隊員デニス・モーガンが看護婦と仲良くなりますが、海兵隊員は特に家庭を持ちたくなさそうなので、看護婦が彼に家庭の良さを味わわせるために、雑誌の連載記事が人気のカリスマ主婦バーバラ・スタンウィックの家に彼を招待してもらおうと考え、雑誌の社長シドニー・グリーンストリートに手紙を出します。グリーンストリートは、戦争のヒーローに滞在してもらえば宣伝になると考え、OKします。ところが、スタンウィックは、連載記事の内容とは違って、結婚をしておらず、赤ちゃんもおらず、料理もできず、田舎暮らしもしていません。都合のいいことに、コネチカットに農場を持つ金持ちが自分に求婚していたので、彼と結婚することにし、赤ちゃんは隣人から預かります。そこからドタバタが起こるわけですが、最後は、すべてうまく収まります。けっこう面白い映画だし、後味も悪くないです。

バーバラ・スタンウィックは、メロドラマやフィルムノワールでも名演技を見せているので、特にスクリューボール・コメディの女優さんというイメージではないですが、プレストン・スタージェスの「レディ・イヴ」(1941)という傑作があります。父親チャールズ・コバーンと詐欺コンビを組んでおり、金持ちのボンボン、ヘンリー・フォンダをだまそうとしますが、彼のことを好きになる話です。1907年生まれだから、30代半ばぐらいで、知的で、品があり、一番きれいなころでした。「クリスマス・イン・コネチカット」は4年後の作品で、まだきれいです。このころ、フィルムノワールの代表作「深夜の告白」にも主演しています。

相手役のデニス・モーガンは、初めて知りましたが、好感のもてる青年です。「カサブランカ」(1942)でハンフリー・ボガートが演じたリックは、最初彼が演じる予定だったそうです。その「カサブランカ」にも出演していたし、「マルタの鷹」でも好演していた太っちょのおじさんシドニー・グリーンストリートが雑誌社の社長を演じています。怖そうだけど本当はやさしいという役柄を、なんとか演じていますが、目のあたりに表情がないので、やっぱり「マルタの鷹」や「カサブランカ」の腹黒そうな男のほうが似合っています。こういう役柄はチャールズ・コバーンが一番です。

アイリーン・ハミルトンの原案に基づいてライオネル・ハウザーとアデール・コマンディーニが脚本を書き、ピーター・ゴッドフリーが監督。撮影カール・ガスリー、音楽フレデリック・ホランダー、衣装エディス・ヘッド。

1992年にダイアン・キャノン、クリス・クリストファーソン、トニー・カーティスでテレビドラマ化されており、なんと、監督はアーノルド・シュワルツェネッガー。原題は同じですが、「アーノルド・シュワルツェネッガーのキッチン・ウォーズ 彼女の恋は五つ星」という邦題があるようです。

2013年2月 8日 (金)

スクリューボールコメディ (26):「独身者と女学生」「ウチの亭主と夢の宿」

先週に続いてケイリー・グラントの二本立て。相手役はどちらもマーナ・ロイ。

「独身者と女学生」 (The Bachelor and the Bobby-Soxer) は1947年のRKO社の作品。30年代にドル箱スターだったシャーリー・テンプルがハイティーンの役で出演。高校の講師として招かれた著名な画家(ケイリー・グラント)が生徒のシャーリー・テンプルに惚れられ、10代のギャルのいろんなお遊びに付き合わされる羽目になるという話。彼女の姉マーナ・ロイは判事をしており、表向き冷たいが、時折こぼれるお色気が魅力的。特に肩ひもが片方しかないドレスがセクシー。

ピクニックのエピソードが楽しいです。どこかの広場で多くの人々がレジャーを楽しんでおり、ケイリー・グラントはいろんな障害物競争に出場させられ、ヘトヘトになります。グラントの恋敵は地方検事補のルディ・バリーで、グラントはことごとく彼に負けますが、最後の大一番で逆転します。もっとも、これにはグラントの責任ではないインチキがあって、のちに問題となります。ルディ・バリーがライバルとして弱いのが残念で、「新婚道中記」や「ヒズ・ガール・フライデー」のフラレ男ラルフ・ベラミーだったらなあと思わずにいられません。でも、ルディ・バリーは有名なバンドリーダーなんですね。全体的に脇役が地味で、もっとなじみの人がいればいいのになあって思います。なかでは、ロイとテンプル姉妹の叔父さんの精神科医レイ・コリンズがいい味を出しています。

原案と脚本は、のちにベストセラー作家となるシドニー・シェルダンで、この作品でアカデミー脚本賞を獲得。監督はアービング・ライス。楽しく見ることはできるけど、傑作というほどではないです。シャーリー・テンプルは可愛らしく育っていますが、ハツラツとした魅力が感じられません。

DVDはケイリー・グラントの米盤4枚組。ほかは「ウチの亭主と夢の宿」「ママのご帰還」「夜も昼も」「独身者と女学生」。英語字幕を表示できます。「ママのご帰還」については先週書きました。「夜も昼も」 (1946) の原題は「Night and Day」で、この時点でまだ健在だったコール・ポーターが成功するまでを描いた伝記的作品。

Bobysox

「ウチの亭主と夢の宿」 (Mr. Blandings Builds His Dream House) はRKO社がデビッド・O・セルズニックと共同で作った1948年の白黒映画。スクリューボールコメディというよりホームコメディ。というのも、まだ「独身者と女学生」には三角関係がありましたが、この作品でのグラントとロイは夫婦で、女の子が二人いるからです。この夫婦の友人役でメルビン・ダグラスが出演していて、好サポートしていますが、あくまで友人で、グラントが勝手に嫉妬しているのがおかしい。グラントがロイに「あいつは帰るときいつも俺に握手して、君にキスする」と言うと、「じゃあ、あなたは彼からキスしてもらいたいの」と切り返されます。30年代にウィリアム・パウエルとのコンビでの「影なき男」シリーズで人気が出たマーナ・ロイは良妻賢母型のコメディエンヌで、前記の映画よりもこっちのほうが似合います。すでに40歳を超えていました。そういえば、前記の映画でハイティーンのテンプルの姉というのも苦しい設定で、映画の中でも「(テンプルの)お母さんか」とたずねられる場面がありました。

ニューヨークに住む中流家庭のアパートが手狭なので、田舎に家を買うのだけど、それがとんでもないボロ家で、新しく家を建てなければいけなくなり、費用がすごくかさむ話。手狭なアパートで夫婦が起きるところから出勤するまでをユーモラスかつていねいに描いているのに、まず感心させられます。あとは、家が建つまで誤算続きなのが笑わせてくれます。というより、お金のかさみ具合にハラハラします。一番面白いのは、狭い物置のドアが内側から開かないために、下見をしていたメルビン・ダグラスがまず閉じ込められ、助けに来た夫婦も閉じ込められるシーンです。この開かないドアは終わりのほうでもオチとして使われていたような気がします。

原作エリック・ホジンズ、脚本はノーマン・パナマとメルビン・フランクの名コンビ、監督HCポッター、撮影ジェームズ・ウォン・ハウ。

DVDは上述の「独身者と女学生」と同じセット。

Blandings

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