2012年5月25日 (金)

フィルムノワール入門 (57)

いよいよ Andrew Spicer の Film Noir も本日が最終回。最後は、映画監督の事例研究の、アンソニー・マン、ロバート・シオドマクに続く三人目フリッツ・ラングです。

スリラーを中心に作り続けてきたヒッチコックは、イギリス時代とアメリカ時代に一貫性があるし、シオドマクやビリー・ワイルダーといった亡命監督はドイツ時代にさほど功績を残していませんが、フリッツ・ラングは、「ドクトル・マブセ」「ニーベルンゲン」「メトロポリス」「M」などでドイツ時代から巨匠だったので、亡命先のハリウッドで作った約20本の娯楽映画との相違が特徴的です。世界映画史の観点からするとドイツ時代の作品が重要かもしれませんが、カイエ・デュ・シネマ誌あたりを中心とした作家主義の批評家たちによってハリウッド時代のラングも評価が高くなっているはずです。私自身、ハリウッド時代のほうが好きです。

ヒッチコックよりもユーモア度が少なくて、堅物だという印象があったのですが、「飾窓の女」や「スカーレット・ストリート」は、けっこうユーモアが感じられます。もちろん、エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット、ダン・デュリエといった俳優に負うところも大きいのですが。ロビンソンの人間味あふれる演技は言うまでもありませんが、「スカーレット・ストリート」のヒモ野郎ダン・デュリエの演技も絶品です。それに、忘れてはならないのが「復讐は俺に任せろ」のグロリア・グレアム。こういった登場人物がうごめくハリウッドのラング作品はドイツ時代よりも私には興味深いのです。

では、読んでいきます。

ドイツ時代の「M」(1931)がフィルムノワールに与えた影響は大きいし、1930年代にハリウッドで作った「激怒」(1936, Fury) や「暗黒街の弾痕」(1937, You Only Live Once) も先駆的作品だ。この二作とも、ドイツ時代のラング作品のように、運命論が支配しているが、関心は個人の実存よりも社会に向いており、不況時代のアメリカの矛盾と緊張の強力な研究となっている。

自分がコントロールできない巨大な力に巻き込まれた、欠点はあるが、同情を呼ぶアウトサイダーの主人公は、多くのフィルムノワールの主人公の先駆的存在である。抑えた照明と異常なアングルが不安定感を作り出している。ラングは罪と無罪の曖昧さを利用しているだけでなく、これを、センセーショナルな出来事に飢え、個人の人生に無関心な現代のメディアに結びつけている。「激怒」での興奮しやすいニュースカメラマンとか、「暗黒街の弾痕」で主人公の裁判の結果を伝える見出し三種類を平然と作り上げてしまう植字工とか。

戦時中のスパイスリラーとして「マンハント」(1941)、「死刑執行人もまた死す」(1943)、「恐怖省」(1944)がある。これらの映画における精神異常のナチス、蔓延した恐怖の雰囲気、逃亡中の迫害された主人公も、フィルムノワールの初期の発展に影響を与えた。

罪の意識の問題と自己同一性の不安定さが全体的に存在するものの、ラングのフィルムノワールは大きく二つに分けることができる。

  • テーマがフロイト風で、個人の欲望を中心とした作品
    「飾窓の女」(1944)、「スカーレット・ストリート」(1945)、「扉の蔭の秘密」(1948)、「House by the River」(1949)
  • 自己と社会との相互関係に焦点を合わせた作品
    「青いガーディニア」(1952)、「復讐は俺に任せろ」(1953)、「口紅殺人事件」(1955)、「条理ある疑いの彼方に」(1956)

ほかのフィルムノワール、「熱い夜の疼き」(1951)と「仕組まれた罠」(1954)は、社会現実主義的なメロドラマだ。

ラングの作品は、どうにもならない運命に支配されているとよく言われるが、これは彼の初期の作品に当てはまる。ラングは、1948年に書いた文章で、運命論を拒絶し、観客は第二次大戦後に成熟したので、選択規準を持った主人公の葛藤をドラマ化した複雑な映画を受入れることができると主張している。もはや映画を支配しているのは運命ではなく欲望なのである。

あとは上述の二つのグループに分けた作品の説明です。これらは「フィルムノワール作品リスト」の個々の映画について鑑賞するときに利用させてもらうことにして、今回はパス。

最後にハリウッド時代のフリッツ・ラングの作品リストを掲載します。

  1. 「激怒」 (1936) Fury
    シルビア・シドニー、スペンサー・トレイシー主演。犯罪もの。
  2. 「暗黒街の弾痕」(1937) You Only Live Once
    シルビア・シドニー、ヘンリー・フォンダ主演。犯罪もの。
  3. 「真人間」 (1938) You and Me
    シルビア・シドニー、ジョージ・ラフト主演。犯罪ロマンスもの。
  4. 「地獄への逆襲」 (1940) The Return of Frank James
    ヘンリー・フォンダ、ジーン・ティアニー主演。ジェシ・ジェームズの兄の復讐談。西部劇。
  5. 「西武魂」 (1941) Western Union
    ロバート・ヤング、ランドルフ・スコット主演。西部劇。
  6. 「マンハント」 (1941) Man Hunt
    ウォルター・ピジョン、ジョージ・サンダース、ジョーン・ベネット主演。ドイツのスパイから逃げる男。スリラー。
  7. 「死刑執行人もまた死す」 (1943) Hangmen Also Die!
    ブライアン・ドンレビー、ウォルター・ブレナン主演。gooによると、「第2次大戦中のプラハを舞台に、ナチスに追われるレジスタンスの恐怖を描く。」
  8. 「恐怖省」 (1944) Ministry of Fear
    レイ・ミランド主演。ナチのスパイの陰謀を偶然知った男が陰謀を阻止しようとする。
  9. 「飾窓の女」 (1944) The Woman in the Window
    エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット、ダン・デュリエ主演。ショーウィンドウに飾ってある女性の絵に魅せられた男が、強迫と殺人の悪夢に陥る話。
  10. 「スカーレット・ストリート」 (1945) Scarlet Street
    ルノワールの「牝犬」のリメイク。悪女とそのヒモにだまされる日曜画家。こちらに書いています
  11. 「外套と短剣」 (1946) Cloak and Dagger
    ゲイリー・クーパー、リリー・パーマー主演。冒険ロマンス。
  12. 「扉の蔭の秘密」 (1947) Secret Beyond the Door
    ジョーン・ベネット、マイケル・レッドグレーブ主演。青髭のフロイト版。
  13. 「House by the River」 (1950)
    ルイス・ヘイワード、リー・ボウマン、ジェーン・ワイアット主演。狂った作家がメイドを殺し、兄弟に死体を隠すのを手伝ってもらうが、その兄弟が容疑者にされるゴシック・ミステリー。
  14. 「American Guerilla in the Phillippines」(1950)
    タイロン・パワー、ミシュリーヌ・プレール主演。第二次大戦中、日本軍のフィリピン侵略に対抗してアメリカ兵が結成したゲリラの話らしい。
  15. 「無頼の谷」 (1952) Rancho Notorious
    マレーネ・デートリッヒ、アーサー・ケネディ主演。西部劇。
  16. 「熱い夜の疼き」 (1952) Clash by Night
    バーバラ・スタンウィック、ロバート・ライアン主演。こちらに書いています
  17. 「青いガーディニア」 (1953) The Blue Gardenia
    アン・バクスター、リチャード・コンテ主演。電話交換手が酔っ払い、男の厄介になる。翌朝彼のアパートで目覚め、自分が殺人を犯したんじゃないかという恐怖に襲われる。
  18. 「復讐は俺に任せろ」 (1953) The Big Heat
    グレン・フォード、グロリア・グレアム、リー・マービン主演。妻を殺された刑事の復讐。
  19. 「仕組まれた罠」 (1954) Human Desire
    ルノワールの「獣人」のリメイク。こちらに書いています
  20. 「ムーンフリート」(1955) Moonfleet
    スチュアート・グレンジャー、ジョージ・サンダース、ジョーン・グリーンウッド主演。18世紀イギリスを舞台にした冒険もの。
  21. 「口紅殺人事件」 (1956) While the City Sleeps
    ダナ・アンドリュース、ロンダ・フレミング、ジョージ・サンダース主演。連続女性殺人魔を追う敏腕記者。
  22. 「条理ある疑いの彼方に」 (1956) Beyond a Reasonable Doubt
    ダナ・アンドリュース、ジョーン・フォンテーン主演。死刑反対の作家が
    自らストリッパー殺しの罪で裁判にかけられ、状況証拠の間違いを証明しようとするが...。

【スカーレット・ストリート】

001

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年5月18日 (金)

フィルムノワール入門 (56)

昨日散歩中に出会ったカープ電車。これで朝6時に通勤する気持ちってどんなんだろう。しかも前夜に負けていたら最悪じゃん。

001_2 

先週のアンソニー・マンは、やはり50年代のジェームズ・スチュアート主演の西部劇やゲイリー・クーパー主演の「西部の人」が頂点だと思うので、それ以前のフィルムノワールを楽しむ前に、それらの西部劇をちゃんと見ておきたいと思うのです。来月挑戦してみます。

で、次はロバート・シオドマク。もともとドイツ人で、ドイツのウーファ社のためにエドガー・G・ウルマーと共同監督した「People on Sunday」(1930)は少し前にクライテリオンから発売され、なかなか瑞々しい作品でした。ビリー・ワイルダーが脚本に参加、フレッド・ジンネマンがカメラマン助手。誰かさんのおかげで、才能ある映画人がどれだけアメリカに流出したことか。

30年代の初めにユダヤ人のシオドマクはフランスに亡命。フランスで何本か映画を作ったのち、1940年に渡米。50年代の初めまでハリウッドでスリラーを中心に数多くの映画を作り、それ以降は1969年まで西ドイツを中心としていたようです。心臓発作のため1973年に72歳で死去。

シオドマク作品で一番印象に残っているのは1945年の「らせん階段」で、これはフィルムノワールというより、「ガス燈」のようなゴシック・スリラーでした。ドロシー・マクガイア演じる口のきけない女中が、障害者の女性ばかり狙う連続殺人鬼に襲われるが、口がきけないので助けを求めることができないというハラハラドキドキの映画でした。

40年にアメリカに来たとき、彼の欧州での作品はほとんど知られていなかったので、いろんな映画会社を渡り歩きましたが、弟カート・シオドマクが脚本家として働いていたユニバーサルと長期契約を結びます。ユニバーサルでの一作目は「夜の悪魔」というホラー映画でしたが、二作目としてコーネル・ウールリッチ原作の「幻の女」(1944)を作ります。これがユニバーサルで最初のフィルムノワールだそうです。(これは日本盤DVDがあります。)

次に作ったのが「クリスマスの休暇」(1944)で、ユニバーサルのドル箱スター、ディアナ・ダービン主演、ジーン・ケリー共演という、どう考えてもミュージカルコメディだろうという配役なのに、フィルムノワールです。サマセット・モームの原作を「市民ケーン」のハーマン・J・マンキーウィッツが脚色。これ、未見なので、見たいです。

続いてチャールズ・ロートン主演の「容疑者」(1944) 、ジョージ・サンダース主演の「The Strange Affair of Uncle Harry」(1945)を作ります。このあと「らせん階段」になりますが、これはRKOとセルズニックの共同制作のためにシオドマクが貸し出されたものです。

ユニバーサル社とインターナショナル社が合併して、ユニバーサル=インターナショナル社になると、もっと質の良い作品を作る方針になったので、1946年の「暗い鏡」は制作費が増えました。これはオリビア・デ・ハビランドが双子の姉妹を演じ、どちらが殺人犯かを刑事と精神科医がつきとめようとする話で、これも見てみたい。

続いて、バート・ランカスター主演の「殺人者」(1946)と「裏切りの街角」(1949)を作ります。これらはマーク・ヘリンジャーというプロデューサーによるもので、より現代的で、野外撮影が多用されています。「裏切りの街角」については、ここで書いています

「都会の叫び」(1948)はシオドマクが20世紀フォックスに貸し出されて作ったものです。これは、子供のころの仲間が刑事とヤクザになるという「汚れた顔の天使」のような話で、刑事になるのがビクター・マチュア、ヤクザになるのがリチャード・コンテです。これも未見。

シオドマクの最後のフィルムノワールはパラマウントの「血塗られた情事」(1949)で、主演はバーバラ・スタンウィック。一年前に見ています

今回は Andrew Spicer の Film Noir の流れに沿ってはいるのですが、時間の関係で、個々の作品については詳しく書くことができませんでした。いくつかは、すでに詳しく書いている作品もありますが、そうでないものについては、そのうちにということで。次回はフリッツ・ラングです。

「裏切りの街角」から、バート・ランカスターとダン・デュリエ。左端はイボンヌ・デ・カーロ。

002

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年5月11日 (金)

フィルムノワール入門 (55)

Andrew Spicer の Film Noir もいよいよ佳境に入ってきました。第6章「フィルムノワールの映画作家」。このあともネオノワールとかイギリスのフィルムノワールとか紹介しているのですが、今のところ興味ないので、第6章で終わりにします。アンソニー・マン、ロバート・シオドマク、フリッツ・ラングの三人を論じています。で、今週はアンソニー・マン。

アンソニー・マンというと、ジェームズ・スチュアート主演の数作品とゲイリー・クーパー主演の「西部の人」という50年代の西部劇が高く評価されています。スチュアート主演の西部劇の題名をざっと挙げておくと、「ウィンチェスター銃73」「怒りの河」「裸の拍車」「遠い国」「ララミーから来た男」です。ヘンリー・フォンダとアンソニー・パーキンズの「胸に輝く星」というのもありました。西部劇ではないけれど、スチュアートとのコンビ作なら「グレン・ミラー物語」というのもあります。テレビに対抗するためにハリウッドが大作主義になってからは、「エル・シド」や「ローマ帝国の滅亡」といった大作に駆り出され、ニコラス・レイ同様、作家性が発揮できなくなったのは残念です。

で、彼がフィルムノワールを作っていたのは、スチュアートとの西部劇でブレイクする前の40年代です。マンはもともと舞台監督で、1938年にタレント・スカウトとしてセルズニックに雇われました。翌年、パラマウントで助監督になります。最初の監督作は「Dr. Broadway」という1942年の作品です。エリッヒ・フォン・シュトロハイム主演の三作目「The Great Flamarion」(テレビ題名「たそがれの恋」)で初めてフィルムノワールらしきストーリーを扱います。

リパブリック社のために作った「Strange Impersonation」(1946、テレビ題名「仮面の女」)は、複雑なストーリーのわりに演技が伴わなかったようですが、視覚面や編集面でフィルムノワールらしさが出てきたようです。

続いてRKO社の「Desperate」(1947)。これは見たことがあって、2010年7月28日に書いています

ジョン・C・ヒギンズという脚本家とジョン・アルトンという撮影監督と組んだことがマンのフィルムノワール作品を発展させました。ヒギンズとの作品次の5つです。

これらのうち、最初のを除いた作品でアルトンが撮影を担当しており、さらに「秘密指令」(1949,Reign of Terror)というロバート・カミングス主演作でも組んでいます。

アンソニー・マンのスタイルは、明確で、効果的で、ペースの速いストーリー展開に、独特のカメラアングルとコントラストの強い映像が組み合わされたものです。

「T-Men」と「Raw Deal」がすぐれているらしいのですが、この二作に限って見ていなくて、トホホです。アメリカ盤のDVDは求めやすいので、近いうちに見ます。

マンには "Side Street" というフィルムノワールもあります。これは見たことがあります

駆け足でやりすぎましたかね。「T-Men」と「Raw Deal」を見てから、もう一度挑戦してみます。来週のロバート・シオドマクはもうちょっとじっくりやるつもり。

120510

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年5月 4日 (金)

フィルムノワール入門 (54)

昨日のキャプテンと比べたら、ドカーンって感じのリタ・ヘイワースの「ギルダ」。

Gilda

身長だけなら、くまいちょーも負けない

ストリップティーズまがいの有名なシーン。「Put the Blame on Mame」という曲で、歌は別の人による吹替えです。

Andrew Spicer の Film Noir の第5章「フィルムノワールの性」は2月24日から始めて、本日やっと最後の項目。「ギルダ」の事例研究です。

「ギルダ」は1946年のコロンビア映画で、監督チャールズ・ビダー、主演はリタ・ヘイワースのほかにグレン・フォードとジョージ・マクレディ。グレン・フォード演じる落ちぶれた賭博師ジョニー・ファレルをカジノの経営者マンドソン(ジョージ・マクレディ)が救って、自分の片腕にします。旅行先から帰ったマンドソンが一緒に連れて帰ってきた花嫁ギルダは、なんとファレルの元の彼女。という三角関係の話です。

ドイツが降伏したころのブエノスアイレスが舞台で、欲望が渦巻き、法が通用しない都市。戦争が終わったということもあって、抑圧された社会的、性的エネルギーが解放されます。

カジノの経営者、落ちぶれた賭博師、善良な悪女は三人とも戦時中の混乱の産物で、アルゼンチンの現金経済の中で自分を立て直そうとする「過去がなく、未来のみがある」人物たちです。

マンドソンは、先に鋭い刃の付いた仕込杖を「自分の旧友」と称しており、新たな友ファレルにも、杖と同じように、自分のために人を殺してくれる役割を求めます。ヨーロッパから来たらしい洗練されたマンドソンは、アメリカの田舎者ファレルを洗練された男に育てる先生でもあります。

この精神的ホモのような二人の関係を打ち破るのが美人のギルダです。ギルダを守る役目をマンドソンから与えられたファレルは、マンドソンへの忠誠とギルダへの欲望の間で引き裂かれます。三人は疑念と憎悪の暗い三角関係でがんじがらめになります。

「ギルダ」のリタ・ヘイワースは魔性の女とみなされることが多いのですが、二人の男の強烈な愛憎関係に捕えられている善良な悪女のほうが正確です。彼女のじらしや挑発は、女性はすべてのトラブルの元と主張する男性に対する反応です。魔性の女による失恋の悲しみの歌と異なり、ギルダが歌う「Put the Blame on Mame」はジョニーに屈辱を与えるためのストリップの一部として使用されます。これ以前に、ギルダは、彼女のことを理解し、映画の中で賢者として機能するトイレ接客業の老人に同じ曲を聴かせます。このシーンは、彼女の健全な面を見せており、魔性の女というレッテルを貼るのを防いでいます。

けっこう省略していますが、ここまでが「ギルダ」の事例研究。最後は第5章のまとめ。

フィルムノワールの性の構造は、アメリカン・ドリームを破壊する問いかけの重要な部分を形成している。弱い男性主人公が性心理の問題に悩まされる様子は、戦後強まった男性のアイデンティティの危機を暗示している。フィルムノワールは複雑なやり方でこの問題を探求することができた。より現実的な社会問題映画では不可能なやり方で常軌を逸した男性を描くことができた。アメリカの男らしさに対する批評的な見方を発展させる機会を男性スターに与えた。ロバート・ライアンなど数名の俳優は、フィルムノワールで最良の演技をしている。女性にも場が与えられたが、女性の性的能力を悪者扱いするか、戦後の独立した女性という概念を疑問視することが多かった。

次回からは、第6章「フィルムノワールの映画作家」で、アンソニー・マン、ロバート・シオドマク、フリッツ・ラングを取り上げています。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月27日 (金)

フィルムノワール入門 (53)

Andrew Spicer の Film Noir の続き。

【女性演技者】

女性演技者は5名しか取り上げていません。ジョーン・ベネットに関しては、監督に関する次の第6章のフリッツ・ラングに関連して取り上げているらしく、ここには含めていません。

ジョーン・クロフォード Joan Crawford

ジョーン・クロフォードがアカデミー主演女優賞を獲得した「ミルドレッド・ピアース」もジェームズ・M・ケインが原作で、多くの批評家は、女性映画とフィルムノワールを組み合わせた作品だとみなした。ミルドレッドの女性実業家としての独立心、衝動、野望、成功は歓迎されず、秩序のある家庭生活をむしばみ、娘ヴェダ(アン・ブリス)が富とぜいたくによって堕落する原因とみなされた。ヴェダは、ミルドレッドの暗い面を表す代役となり、ミルドレッド自身が拒絶している性的関心を体現している。

「悪党は泣かない」も同様の話である。ここでも強い母親で、単調な結婚と貧乏暮しに拘束されるのを拒絶して、一人息子が交通事故死したあとに家を離れる。彼女は無慈悲なギャングの一員の情婦となり、ライバルとの権力闘争に利用される。

「失われた心」と「突然の恐怖」では、より同情を呼ぶ女性を演じており、独立を求める奮闘ゆえに、恋人が不誠実で支配的だとわかると、精神的に苦しむ。「失われた心」での彼女は完全に神経衰弱になる。「突然の恐怖」では、夫を殺し、夫の恋人に濡れ衣を着せる計画を立てるが、気持ちを落ち着かせるのが遅すぎて、両者を助けることができない。

クロフォードが演じる人物は常に破滅させられるか、屈辱を与えられる。これは、独立心、性的魅力、野心のために払わなければならない代償である。

  • 「ミルドレッド・ピアース」 Mildred Pierce (1945)
    マイケル・カーティス監督、ジャック・カーソン、ザカリー・スコット、イヴ・アーデン共演、ワーナー
  • 「悪党は泣かない」 The Damned Don't Cry (1950)
    ヴィンセント・シャーマン監督、デヴィッド・ブライアン、スティーヴ・コクラン共演、ワーナー
  • 「失われた心」 Possesed (1947)
    カーティス・バーンハート監督、ヴァン・ヘフリン、レイモンド・マッセイ共演、ワーナー
  • 「突然の恐怖」 Sudden Fear (1952)
    デヴィッド・ミラー監督、ジャック・パランス、グロリア・グレアム共演、RKO配給

バーバラ・スタンウィック Barbara Stanwyck

まずは、もちろん「深夜の告白」。これも原作はジェームズ・M・ケインで、脚色にレイモンド・チャンドラーが参加。彼女が演じる魔性の女フィリス・ディートリクソンはエロチックで冷酷無情。

「呪いの血」で演じている魔性の女マーサ・アイヴァーズは、少女時代、育ての伯母にいじめられたことで、冷酷な野心に基づいて行動するようになっている。この野心は、伯母の殺人という暗い秘密によって、ますます強固になり、弱い夫ウォルター(カーク・ダグラス)を支配するだけでなく、中西部の町全体をも支配せずにいられない。幼なじみのサム(ヴァン・へフリン)が20年ぶりに戻ってきて、彼女の安心感をおびやかすと、彼女は本能によってサムを誘惑して、夫を殺させようとする。サムが拒否して、彼女から離れると、彼女を殺そうと試みるウォルターを手助けし、拳銃を自分の胃に深く押しつける。彼女は、まるで自分の人生で拒否され続けてきた性的快感と解放ででもあるかのように、死を楽しむ。スタンウィックは「私は殺される」でも相続人を演じ、ここでも、弱い男を支配によって破滅させた代償として死を選ぶ。

「血塗られた情事」「熱い夜の疼き」「殺人目撃者」では、より同情を誘う役柄だが、彼女の最後のフィルムノワール「Crime of Passion」まで典型的な魔性の女であり続けた。「Crime of Passion」でも冷酷な野心家を演じ、コラムニストとしてのキャリアをあきらめたのち、警官である退屈な夫を昇進させるために夫の上司を誘惑して殺害する。

  • 「深夜の告白」 Double Indemnity (1944)
    ビリー・ワイルダー監督、フレッド・マクマレー、エドワード・G・ロビンソン共演、パラマウント
  • 「呪いの血」 The Strange Love of Martha Ivers (1946)
    ルイス・マイルストン監督、ヴァン・ヘフリン、リザベス・スコット、カーク・ダグラス、ジュディス・アンダーソン共演、パラマウント配給
  • 「私は殺される」 Sorry, Wrong Number (1948)
    アナトール・リトバク監督、バート・ランカスター、ウェンデル・コーリー共演
  • 「血塗られた情事」 The File on Thelma Jordon (1949)
    ロバート・シオドマク監督、ウェンデル・コーリー、ポール・ケリー共演、パラマウント配給
  • 「熱い夜の疼き」 Clash by Night (1952)
    フリッツ・ラング監督、ポール・ダグラス、ロバート・ライアン、マリリン・モンロー共演、RKO
  • 「殺人目撃者」 Witness to Murder (1954)
    ロイ・ローランド監督、ジョージ・サンダーズ、ゲイリー・メリル共演、ユナイテッドアーティスツ配給
  • 「Crime of Passion」(1957)
    ガード・オズワルド監督、スターリング・ヘイドン、レイモンド・バー共演、ユナイテッドアーティスツ配給

クレア・トレヴァー Claire Trevor

トレヴァーは、ギャングの情婦からフィルムノワールの魔性の女へと進化した。「Crossroads」や「Street of Chance」でけばけばしいブロンドの誘惑女を演じたのち、「ブロンドの殺人者」でヴェルマことグレイル夫人を演じ、「深夜の告白」のスタンウィックとともに魔性の女の模範を確立した。「執念の男」では、能力のある自立した女性を演じ、暴力や冷酷さに対するぞっとする好みを持っているために、精神異常の主人公を魅了する。「Raw Deal」では、より同情を誘う役柄である。

  • Crossroads (1942)
    ジャック・コンウェイ監督、ウィリアム・パウエル、ヘディ・ラマー主演、MGM
  • Street of Chance (1942)
    ジャック・ハイヴリー監督、バージェス・メレディス共演、パラマウント(コーネル・ウールリッチ「黒いカーテン」原作)
  • 「ブロンドの殺人者」 Murder, My Sweet (1944)
    エドワード・ドミトリク監督、ディック・パウエル、アン・シャーリー、オットー・クルーガー共演、RKO(レイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」原作)
  • 「執念の男」Born to Kill (1947)
    ロバート・ワイズ監督、ローレンス・ティアニー共演、RKO(別名「生まれながらの殺し屋」)
  • 「Raw Deal」 (1948)
    アンソニー・マン監督、デニス・オキーフ主演、イーグル・ライオン配給

リザベス・スコット Lizabeth Scott

スコットは、官能的で、壊れやすい美しさがあり、長い金髪と対照的に黒っぽい濃い眉毛で、低くハスキーな声をしている。「大いなる別れ」や「おとし穴」で典型的な妖婦を演じた。「Too Late for Tears」では強欲な女性を演じ、貧しい中流から抜け出すために夫を殺し、偶然入手した大金入りバッグを手放さない。スコットの役柄は進化して、「呪いの血」「暗黒街の復讐」「虐殺の街」では善良な悪女を演じるようになった。

  • 「大いなる別れ」 Dead Reckoning (1947)
    ジョン・クロムウェル監督、ハンフリー・ボガート主演、コロンビア
  • 「おとし穴」 The Pitfall (1948)
    アンドレ・ド・トス監督、ディック・パウエル、ジェーン・ワイアット、レイモンド・バー共演、ユナイテッドアーティスツ配給
  • Too Late for Tears (1949)
    バイロン・ハスキン監督、ドン・デフォー、ダン・デュリエ、アーサー・ケネディ共演、ユナイテッドアーティスツ配給
  • 「呪いの血」 The Strange Love of Martha Ivers (1946)
    (バーバラ・スタンウィックの項参照)
  • 「暗黒街の復讐」 I Walk Alone (1948)
    バイロン・ハスキン監督、バート・ランカスター、カーク・ダグラス、ウェンデル・コーリー共演、パラマウント配給
  • 「虐殺の街」 Dark City (1950)
    ウィリアム・ディターレ監督、チャールトン・ヘストン共演、パラマウント

グロリア・グレアム Gloria Grahame

彼女の性的魅力はリザベス・スコットとはかなり異なる。おびえた薄い唇で、小娘タイプで、キーキー声で、いつも少々ふざけた感じだ。「突然の恐怖」と「仕組まれた罠」では二枚舌の典型を演じたが、「孤独な場所で」では、官能的で、自立的で、幸せそうだが、魔性の男(ハンフリー・ボガート)とのマゾ的な関係に陥る現代女性を演じた。

彼女の最も印象に残る役は「復讐は俺に任せろ」のデビー・マーシュである。典型的な情婦だが、知性とウィットと皮肉っぽさを持っているために、複雑な人物になっている。旦那であるギャングの幹部リー・マーヴィンに熱いコーヒーをかけられて顔が焼けただれたあと、観客の同情を誘う悲劇的な人物となる。彼女は、主人公グレン・フォードを次第に人間的にするし、本当の悪女を殺す勇気を持っている。たぶん、彼女の殉教はフィルムノワールの女性に与えられた殉教の中で最高のものであろう。

「拳銃の報酬」では魔性の女に戻り、誰かを殺すときどんな気持ちかをたずねることで、ロバート・ライアンとの情事に興奮を加えようとする。

  • 「突然の恐怖」 Sudden Fear (1952)
    (ジョーン・クロフォードの項参照)
  • 「仕組まれた罠」 Human Desire (1954)
    フリッツ・ラング監督、グレン・フォード主演、コロンビア(エミール・ゾラ原作、ルノワールの「獣人」の再映画化)
  • 「孤独な場所で」 In a Lonely Place (1950)
    ニコラス・レイ監督、ハンフリー・ボガート主演、コロンビア
  • 「復讐は俺に任せろ」 The Big Heat (1953)
    フリッツ・ラング監督、グレン・フォード主演、コロンビア
  • 「拳銃の報酬」 Odds Against Tomorrow (1959)
    ロバート・ワイズ監督、ハリー・ベラフォンテ、ロバート・ライアン、シェリー・ウィンターズ主演、ユナイテッドアーティスツ配給

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月21日 (土)

フィルムノワール入門 (52)

本日はサンディ・デニーが1978年に31歳で亡くなった日。あれから34年。最近でも、彼女の残した歌詞に曲をつけたアルバムを発表する女性歌手がいたり、彼女のメモリアルコンサートが催されたり、自家製のソングブックが出版されたり、各ソロアルバムの二枚組デラックスエディションが発売予定だったりと、けっこう盛んです。

で、私なりにここで彼女の特集をするつもりだったのですが、昨日からのフィルムノワールの男性演技者を済ませたいので、本日は一曲のみ。全世界で何千万枚も売れているらしいので、彼女のことを知らなくても彼女の声が一番聴かれているのはレッド・ツェッペリンの4枚目に入っている「The Battle of Evermore」でしょうね。

では、Andrew Spicer の Film Noir からです。

【男性演技者】(続き)

ダナ・アンドリューズ Dana Andrews

ダナ・アンドリューズはハンサムだし、ストレートな態度だしで、アメリカの典型的ないい奴だが、彼演じる見かけは冷静なプロフェッショナルが外見どおりだったためしがない。

彼もあまり演技しないほうで、目をうまく使って、内面の苦悩に満ちた自己不信を表現している。苦悩に満ちた自己不信は「歩道の終わる所」(1950)のはみだし刑事が強烈に表現している。彼の暴力的なやり方によって容疑者が死亡してしまうが、彼の態度は、コソ泥だった父親の記憶を払いのけようとする神経症的な欲望と関係している。だが、彼の自己不信が最も繊細に描かれているのは「ローラ殺人事件」(1944)である。

フリッツ・ラングも後期のフィルムノワールでダナ・アンドリューズを起用している。「口紅殺人事件」(1955)と「条理ある疑いの彼方に」(1958)は、資質がなく、堅固さの下に自分でもよくわからない犯罪的欲望が潜んでいるアンドリューズ演じる人物の総決算である。

  • 「歩道の終わる所」 Where the Sidewalk Ends (1950)
    オットー・プレミンジャー監督、ジーン・ティアニー共演、二十世紀フォックス
  • 「ローラ殺人事件」 Laura(1944)
    オットー・プレミンジャー監督、ジーン・ティアニー共演、二十世紀フォックス
  • 「口紅殺人事件」 While the City Sleeps(1955)
    フリッツ・ラング監督、ロンダ・フレミング、アイダ・ルピノ共演、RKO
  • 「条理ある疑いの彼方に」 Beyond a Reasonable Doubt (1958)
    フリッツ・ラング監督、ジョーン・フォンテイン共演、RKO

ロバート・ライアン Robert Ryan

アンドリューズ演じる人物の精神異常は深いところに潜んでいるが、ロバート・ライアンの精神異常はより表面近くに浮かび上がっている。ライアンのゴツゴツしたハンサムぶりと、背が高くほっそりしているが筋肉質の体格によって、主人公と悪漢の間を行き来している。このことによって、いつでも暴力が爆発しそうな、感じやすい一匹狼に豊かさが生まれている。ライアンのスリムな体は、いつも緊張していて、仕草によって弱さやもろさを露呈しない限り、常に用心深い。

ライアンは、「十字砲火」(1947)と「暴力行為」(1949)で障害を負った不安定な復員兵を演じ、「危険な場所で」(1952)ではぐれ刑事を演じた。彼が演じる苦悩に満ちた人物は、さまざま階級にまたがる。「魅せられて」(1949)の金持ち実業家、「熱い夜の疼き」(1952)の普通の奴、「優しき殺人者」(1952)の便利屋(殺人しかねない怒りが記憶喪失によって消し去られる)など。「脅迫者」(1951)、「東京暗黒街・竹の家」(1955)、「拳銃の報酬」(1959)ではフィルムノワールの典型的なギャングの一員であり、苦悩にさいなまれ、不安的で、自分の本当の目的がわからない。

ライアンの最も感動させる演技は暴力とやさしさとの間の葛藤を表現したものである。たとえば、「浜辺の女」(1947)で目が不自由で嫉妬深い画家の妻(ジョーン・ベネット)を愛してしまう障害を負った復員兵や、「罠」(1949)で最後の幸運を夢見る落ちぶれたプロボクサーである。

  • 「十字砲火」 Crossfire (1947)
    エドワード・ドミトリク監督、ロバート・ヤング、ロバート・ミッチャム主演、RKO
  • 「暴力行為」 Act of Violence (1949)
    フレッド・ジンネマン監督、ヴァン・ヘフリン、ジャネット・リー主演、MGM
  • 「危険な場所で」 On Dangerous Ground (1952)
    ニコラス・レイ監督、アイダ・ルピノ共演、RKO
  • 「魅せられて」 Caught(1949)
    マックス・オフュルス監督、ジェームズ・メイソン、バーバラ・ベル・ゲデス主演、MGM
  • 「熱い夜の疼き」 Clash by Night(1952)
    フリッツ・ラング監督、バーバラ・スタンウィック、ポール・ダグラス主演、RKO
  • 「優しき殺人者」 Beware, My Lovely(1952)
    ハリー・ホーナー監督、アイダ・ルピノ主演、RKO
  • 「脅迫者」 The Racket (1951)
    ジョン・クロムウェル監督、ロバート・ミッチャム、リザベス・スコット主演、RKO
  • 「東京暗黒街・竹の家」 House of Bamboo(1955)
    サミュエル・フラー監督、ロバート・スタック共演、二十世紀フォックス
  • 「拳銃の報酬」 Odds Against Tomorrow(1959)
    ロバート・ワイズ監督、ハリー・ベラフォンテ、グロリア・グレアム共演、ユナイテッドアーティスツ
  • 「浜辺の女」 Woman on the Beach(1947)
    ジャン・ルノワール監督、ジョーン・ベネット、チャールズ・ビックフォード共演、RKO
  • 「罠」 The Set-Up(1949)
    ロバート・ワイズ監督、オードリー・トッター共演、RKO

リチャード・ウィドマーク Richard Widmark

ライアンの神経症が基本的に慎み深いものなら、リチャード・ウィドマークの精神異常は人間性のどん底から生まれたものである。神経質で、緊張した金髪のウィドマークのヒステリー発作は、刺すような声、きびきびした話し方、陰気な笑い、痩せこけた体にうっ積した神経エネルギー、とんぎった顔を通じて表現される。

舞台で経験を積んだウィドマークは、「死の接吻」(1947)でのサディスティックでクスクス笑う殺し屋の演技で大いに注目を浴びた。車椅子の老女を階段から突き落として、バカ笑いするシーンは悪名高い。「情無用の街」(1948)でも同じような性格のギャングのボスを演じた。こうした役柄や「復讐鬼」(1950)での人種差別主義のチンピラを通じて、ウィドマークは現代的な犯罪者、良心のない精神異常者の見本を作り上げた。

「街の野獣」(1950)では、性格描写を深めて、ちっぽけな闇屋を悲劇的な人物に仕上げた。この「芸のない芸術家」は、彼にライフスタイルと称賛を与える大当たりを渇望している。彼は、自分の賢さ、想像力、大胆さを頼りにしており、果てしがなく、不安定で、神経過敏のエネルギーを持っている。だが、いつも策におぼれすぎて、悪夢のようなロンドンの暗黒街で、自分の力の及ばないところにいることに気づく。

「拾った女」(1953)でも都会のクズだが、基本的に礼節があり、スリ仲間の女性の死に反応するし、ジーン・ピーターズと新たな生活を始める。だが、永遠のアウトサイダーとしての地位は保ったままである。

  • 「死の接吻」 Kiss of Death(1947)
    ヘンリー・ハサウェイ監督、ヴィクター・マチュア、コリーン・グレイ主演、二十世紀フォックス
  • 「情無用の街」 The Street with No Name(1948)
    ウィリアム・キーリー監督、マーク・スティーヴンズ主演、二十世紀フォックス
  • 「復讐鬼」 No Way Out(1950)
    ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督、リンダ・ダーネル、シドニー・ポワチエ共演、二十世紀フォックス
  • 「街の野獣」 Night and City(1950)
    ジュールズ・ダッシン監督、ジーン・ティアニー共演、二十世紀フォックス
  • 「拾った女」 Pickup on South Street (1953)
    サミュエル・フラー監督、ジーン・ピーターズ、セルマ・リッター共演、二十世紀フォックス

ダン・デュリエ Dan Duryea

ダン・デュリエのだらしないハンサムぶりは、古い世界の退廃と現在的な犯罪を組み合わせたものである。「Lady on a Train」(1945)では魅力的な貴族風ゲスを演じ、「スカーレット・ストリート」(1945)では、いかがわしくて、ずるいヒモを演じた。彼の職業は、「The Underworld Story」(1950)のジャーナリストであれ、「Manhandled」(1950)の私立探偵であれ、すぐにお金を得ようとする愛想のいい詐欺師である。

「裏切りの街角」(1949)の悪党は、より暗い。「黒い天使」(1946)におけるアル中のナイトクラブのピアニストや「World for Ransom」(1954)におけるシンガポールの暗黒街でさまよう疲れ切った私立探偵は、ロマンチックな女性尊重のなごりにしがみついている。

デュリエが最も複雑な役を演じている作品は「The Burglar」(1957)である。悲劇的で薄気味悪いチンピラが主人公のデヴィッド・グーディスの小説が原作である。主人公は、娘ジェイン・マンスフィールドを世話してほしいという代理父の臨終時の約束にとりつかれている。保護者としての彼の役割の真面目さは、彼女を無理やり住まわせようとしている下劣な世界や彼自身の性的欲求と相反する。

  • 「Lady on a Train」(1945)
    チャールズ・デヴィッド監督、デュアナ・ダービン主演、ユニバーサル
  • 「スカーレット・ストリート」 Scarlet Street(1945)
    フリッツ・ラング監督、エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット主演、ユニバーサル
  • 「The Underworld Story」(1950)
    サイ・エンドフィールド監督、ハーバート・マーシャル、ゲイル・ストーム共演、ユナイテッドアーティスツ
  • 「狙われた女」 Manhandled(1950)
    ルイス・R・フォスター監督、ドロシー・ラムーア主演、パラマウント
  • 「裏切りの街角」 Criss Cross(1949)
    ロバート・シオドマク監督、バート・ランカスター、イヴォンヌ・デ・カーロ主演、ユニバーサル
  • 「黒い天使」 Black Angel(1946)
    ロイ・ウィリアム・ニール監督、ジューン・ヴィンセント、ピーター・ローレ共演、ユニバーサル
  • 「World for Ransom」(1954)
    ロバート・アルドリッチ監督、ジーン・ロックハート共演、アライド・アーティスツ
  • 「The Burglar」(1957)
    ポール・ウェンドコス監督、ジェイン・マンスフィールド共演、コロンビア

これで「男性演技者」の項終わり。

002

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月20日 (金)

フィルムノワール入門 (51)

朝の続きです。Andrew Spicer の Film Noir からです。

【男性演技者】(続き)

ジョン・ガーフィールド John Garfield

ボガート同様ワーナーの契約俳優。スペイン内戦で感情的・精神的に傷を負った復員兵を演じた「黒い足音」(1943)以降、タフガイとして活躍。「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1946)の放浪労働者が非常に人気となり、傷つきやすい負け犬の役が続いた。

「Nobody Lives Forever」(1946)でのタフな暴力団員、「背信の王座」(1947)でのプロボクサー、「苦い報酬」(1948)での暴力組織の会計士、「破局」(1950)でのチャーター船の船長など、彼自身よりも堕落した人物が住む世界でさまよった。

彼は常に本来の礼儀正しさを感じさせていたので、彼が演じる人物たちは負けることの中に道徳的な救済を見つけることができた。「その男を逃がすな」(1951)で普通の労働者家族を恐れさせるチンピラを演じているガーフィールドは、家族生活に対するあこがれを表現できたし、銃口を突きつけられることにのみ喜びを感じることができた。警察にとって彼は射殺すべき単なる犯罪者であり、暗く濡れた吹きさらしの街頭で無言で死んでいく。

ガーフィールドは、どこにでもいる普通の男であり、すでに過去のものとなったニューディール政策の大衆主義と社会的寛容を具現化していた。彼は左翼の理想主義者だったが、非米活動調査委員会の公聴会で感情的にひどく傷つけられ、結局、1952年に心臓発作で39歳の若さで亡くなった。

ガーフィールドの演技は抑制されたもので、ほとんど動かないし、腕をだらんと下げ、口をピンと張り、目だけが動いている。感情がないのではなく、感情が内側で破裂しており、いつでも暴力が噴出することを暗示している。

彼のスタイルは、絶望的で、真価を認められず、挫折した人物を表現しており、モンゴメリー・クリフト、ジェームズ・ディーン、マーロン・ブランドという苦悩に満ちた50年代のスターを先取りしている。

  • 「黒い足音」(テレビ題名)The Fallen Sparrow (1943)
    リチャード・ウォーレス監督、モーリン・オハラ共演、RKO制作配給
  • 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」The Postman Always Rings Twice (1946)
    テイ・ガーネット監督、ラナ・ターナー共演、MGM制作配給
  • Nobody Lives Forever (1946)
    ジーン・ネグレスコ監督、ジェラルディン・フィッツジェラルド共演、ワーナー制作配給
  • 「背信の王座」 Body and Soul (1947)
    ロバート・ロッセン監督、リリー・パルマー共演、ユナイテッドアーティスツ配給
  • 「苦い報酬」(テレビ題名)Force of Evil (1948)
    アブラハム・ポロンスキー監督、MGM配給
  • 「破局」The Breaking Point (1950)
    マイケル・カーティス監督、パトリシア・ニール共演、ワーナー制作配給
  • 「その男を逃がすな」 He Ran All the Way (1951)
    ジョン・べリー監督、シェリー・ウィンターズ共演、ユナイテッドアーティスツ配給(Andrew Spicer の "Film Noir" の表紙写真)

ロバート・ミッチャム Robert Mitchum

ミッチャムがスターになったのは「過去を逃れて」(1947)であり、彼が演じた欠点のある私立探偵ジェフ・ベイリーは、フィルムノワールで最も有名な演技の一つとなっている。

ボガート同様、ミッチャムもあまり動かない。眠気を催させる動きとトロンとした目は、ほとんど緊張病の症候である。だが、このスタイルによって、ちょっとした動きにも意味が生じる。「過去を逃れて」でキャシー(ジェーン・グリア)がパートナーを殺すときのミッチャムのまばたきは、彼女の堕落に気づいたことを示している。

彼のロマンチックなあこがれを伝えているのは、計算されているが喚起的な嗄れ声のナレーションであり、これによってジェフ・ベイリーは典型的なフィルムノワールの犠牲者となっている。

ミッチャムは「ゼロへの逃避行」(1950)や「天使の顔」(1952)で同様の役柄を演じたが、「過去を逃れて」の援護を超えることはできなかった。唯一、「狩人の夜」(1955)でのアメリカ聖書地帯(米国南部と中西部の根本主義キリスト教徒の優勢な地方)を巡回する精神異常の宣教師役によって演技の幅を広げることができた。

  • 「過去を逃れて」Out of the Past (1947)
    ジャック・ターナー監督、ジェーン・グリア共演、RKO制作配給
  • 「ゼロへの逃避行」Where Danger Lives(1950)
    ジョン・ファロー監督、フェイス・ドマーグ共演、RKO制作配給
  • 「天使の顔」Angel Face(1952)
    オットー・プレミンジャー監督、ジーン・シモンズ、ハーバート・マーシャル共演、ハワード・ヒューズ・プロダクション制作、RKO配給
  • 「狩人の夜」 Night of the Hunter (1955)
    チャールズ・ロートン監督、リリアン・ギッシュ共演。

バート・ランカスター Burt Lancaster

アクロバットをやっていたバート・ランカスターは、ミッチャムよりも演技者である。だが、駆け出しの頃のフィルムノワールでは、肉体を生かした演技をしたので、恐怖や怒りを自制して、歯をむき出して笑う、おなじみとなった仕草を誇示する機会はほとんどなかった。

彼が演じる犠牲者は「敗北と死を切望する官能的なマゾ」である。特に「殺人者」(1946)では、殺し屋が来るのをただ待つのみで、床に倒れこむときには無言の叫びをあげるだけである。

ミッチャムは利口だが、ランカスターは子供のようなもろさがあり、声は驚くほどソフトでやさしい。彼の素晴らしい肉体は、彼にとって厄介か、「真昼の暴動」(1947)での愚かな脱獄の企てで崩壊する道具でしかない。

「私は殺される」(1948)や「裏切りの街角」(1949)のように、彼が演じる犯罪者は普通の男で、妙に自信がなく、つねに途方にくれ、無力である。

  • 「殺人者」 The Killers (1946)
    ロバート・シオドマク監督、エヴァ・ガードナー共演、ユニヴァーサル配給
  • 「真昼の暴動」 Brute Force (1947)
    ジュールズ・ダッシン監督、ユニヴァーサル配給
  • 「私は殺される」 Sorry, Wrong Number(1948)
    アナトール・リトヴァク監督、バーバラ・スタンウィック主演、パラマウント配給
  • 「裏切りの街角」 Criss Cross(1949)
    ロバート・シオドマク監督、イヴォンヌ・デ・カーロ、ダン・デュリエ共演、ユニバーサル制作配給

残りはダナ・アンドリューズ、ロバート・ライアン、リチャード・ウィドマーク、ダン・デュリエ。

「過去を逃れて」のロバート・ミッチャムとジェーン・グリア (「Jacques Tourneur: The Cinema of Nightfall」 から)

001

| | コメント (0) | トラックバック (0)

フィルムノワール入門 (50)

前置きの「演技者」の項は特にたいしたことが書いていないので飛ばします。

【男性演技者】

ハンフリー・ボガート Humphrey Bogart

フィルムノワールで最も重要な男性スター。30年代にはワーナーでタフな悪役だった。転換期は「ハイ・シエラ」で、ジョン・ヒューストンの脚本は、年を取りつつある主人公を同情を誘う人物として演技する機会をボガートに与えた。タフな外見の裏には自信喪失、誤りやすさ、愛への欲求があった。

「マルタの鷹」では皮肉っぽくて、気の利いたユーモアを加え、「カサブランカ」では強面の下にロマンティックな理想主義者のイメージを作り上げた。タフで、無口で、厭世的だが、根っからのロマンチストである「いやいやながらのヒーロー」を1950年まで演じて、ドル箱スターにとどまった。

彼の成功は、「脱出」「三つ数えろ」「潜行者」「キー・ラーゴ」でのローレン・バコールとの共演で強められた。二人は1945年5月に結婚した。このカップルによって、アラン・ラッドとヴェロニカ・レイクのコンビがかすんだ。

ボガートの特徴のない小柄な体格と地味な顔は、しなびた内向きなフィルムノワールの世界を表現していた。彼は最小限度の演技の手本だ。いつも張りつめ、警戒し、口を固く閉じ、しかめた、固い顔は、たまにしか笑わない。彼のタフガイぶりに深みを与えている感情を表現しているのは、狡猾で哀しげな目である。

彼の耳障りな声は、あからさまな感情よりも、軽蔑に満ちた冷笑や困惑した皮肉を表現している。特に「大いなる別れ」では、混乱した気持ちが内面で激しくかきまわされるのをうまく表現している。

彼はトレードマックとなった仕草を作りあげた。親指をベルトに突っこんだり、ズボンのポケットに手を入れたり、歯を見せるために上唇を引いたり、自分の耳たぶを引っぱったり。だが、こうした癖によって、性格描写に深みを与える敵対的態度を表現する彼の能力が曇ることはなかった。たぶん、「孤独な場所で」の精神的に病んだ作家が最良の演技であろう。

フィルムノワールにおけるボガートの演技の幅は、私立探偵として偶像視されていることで影が薄くなっている。トレンチコート姿で体を丸め、広つばの中折れ帽をかぶり、口にタバコをぶら下げている。ベルモンドが「勝手にしやがれ」で真似た都会的で男性的な「クール」の化身である。

「ハイ・シエラ」High Sierra (1941) ラオール・ウォルシュ監督
「マルタの鷹」The Maltese Falcon (1941) ジョン・ヒューストン監督
「カサブランカ」Casablanca (1943) マイケル・カーティス監督
「脱出」 To Have and Have Not (1945) ハワード・ホークス監督
「三つ数えろ」 The Big Sleep (1946) ハワード・ホークス監督
「潜行者」 Dark Passage (1947) デルマー・デイヴィス監督
「キー・ラーゴ」 Key Largo (1948) ジョン・ヒューストン監督
「大いなる別れ」 Dead Reckoning (1947) ジョン・クロムウェル監督
「孤独な場所で」 In a Lonely Place (1950) ニコラス・レイ監督

あと、ジョン・ガーフィールド、ロバート・ミッチャム、バート・ランカスター、ダナ・アンドリューズ、ロバート・ライアン、リチャード・ウィドマーク、ダン・デュリエと続きます。それは、来週のお楽しみ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月15日 (日)

フィルムノワール (27): The Blue Dahlia (1946)

昨日の昼間はDVD三本立て。「青い戦慄」「I Wake Up Screaming」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ジョン・ガーフィールドとラナ・ターナー主演のもの)を見ました。本日はフィルムノワール作品リストの27番目「青い戦慄」。ネタばればれです。他の二本についても近いうちに書きます。

以前調べたところでは、小柄なコンビ、アラン・ラッドとヴェロニカ・レイクの共演作は「拳銃貸します」(1942, This Gun for Hire)、「ガラスの鍵」(1942, The Glass Key)、「青い戦慄」、「Saigon」(1948)の四本。

「拳銃貸します」については昨年12月30日に、「ガラスの鍵」については今年1月13日に書いていて、その翌日に「青い戦慄」について次のように少し書いています。

今日は、「青い戦慄 The Blue Dahlia」(1946)を見ました。アラン・ラッドとベロニカ・レイク共演作。監督ジョージ・マーシャル、脚本レイモンド・チャンドラー。今度はアラン・ラッド主演作だけど、1942年の「拳銃貸します」と「ガラスの鍵」のようなワクワク感がない。「ガラスの鍵」での悪役が印象深かったウィリアム・ベンディックスがラッドの戦友で、脳に障害を持った興味深い役で出ているものの、なんか全体的に緊張感がない。ラッドは主演になった分だけ、「サムライ」のドロンのような孤独感がなくなって、私の興味が失せる。

原題は「青いダリア」で、ありえないものという意味。

ジョージ・マーシャルは、20年代から監督をしているベテランですが、50年代以降のジェリー・ルイスの「底抜け」シリーズなど生ぬるいコメディの印象が強いので、フィルムノワールを監督しているのが変な感じ。

監督: ジョージ・マーシャル
制作: ジョン・ハウスマン(パラマウント)
脚本: レイモンド・チャンドラー
撮影: ライオネル・リンドン (白黒)
音楽: ヴィクター・ヤング
撮影場所: ミラマーホテル、サンタモニカ、エンリコ、マリブ、ハリウッド、カリフォルニア
公開: 1946年4月19日
配給: パラマウント
上映時間: 98分
出演:
アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイク、ウィリアム・ベンディックス、ハワード・ダ・シルヴァ、ドリス・ダウリング

復員兵ジョニー・モリソン(アラン・ラッド)が家に帰ると、妻ヘレン(ドリス・ダウリング)が浮気している。ジョニーは妻のもとから去るが、すぐに彼女の死体が発見され、ジョニーが容疑者にされる。逃走中、謎の女性(ヴェロニカ・レイク)が味方になってくれるが、彼女は、ナイトクラブの経営者でヘレンの浮気相手エディ・ハーウッド(ハワード・ダ・シルヴァ)の妻ジョイスだと判明する。その間、ジョニーの復員仲間バズ(ウィリアム・ベンディックス)とジョージ(ヒュー・ボーモント)はジョニーの殺人容疑を晴らそうとする。だが、バズは戦争で脳に障害を負っており、うるさい音楽を聴くと我を失って暴力をふるうので、バズが本当の犯人ではないかと疑われる。ジョニーとジョイスは最後の対決に臨み、ハーウッドは偶然手下に射殺される。ホテルの探偵ダッド・ニューウェル(ウィル・ライト)が刑事のトリックにひっかかり、ヘレン殺しを告白したのち、銃弾に倒れる。

「Film Noir: An Encyclopedic Reference to the American Style」によると、脚本を書いたチャンドラーはバズを犯人にしたかったのですが、パラマウントが海軍から抗議を受けたので、チャンドラーは犯人を変えざるをえなかったそうです。

「ラッドの感情を抑制した性格描写と、ベンディックスの逆上による記憶喪失が、チャンドラーのハードボイルド小説の雰囲気に、強い視覚効果を与えている。登場人物を支配している表面下の堕落が、ジョージ・マーシャルが作り出した雰囲気と組み合わされて、「青い戦慄」を戦後フィルムノワールの感受性の魅力的な例にしている。最終的な作品よりも映画の要素のほうがよりエキサイティングなので、チャンドラーの最初の脚本と違って、典型的なフィルムノワールというより、興味を引く、流行にあっただけのスリラーになっている。」

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月13日 (金)

フィルムノワール入門 (49)

昨日も例によって Landmarks of Early Soviet Film を見ました。「カメラを持った男」ジガ・ヴェルトフの「進め、ソヴィエト!」(1926)とエスフィリ・シューブの「ロマノフ王朝の崩壊」(1927) という二本のサイレント時代のドキュメンタリー作品です。ヴェルトフのは、最初にロシアの悲惨な様子を見せたあと、いろんな分野で発展が始まっている様子を延々と描いていて、少々しんどかったです。後者は女流監督が古い映像を寄せ集めて作ったもので、第一次大戦や1917年の二月革命を描いていました。どちらも字幕を多用して、観客を導いてくれます。

さて、まだまだ続く Andrew Spicer の Film Noir。第5章「フィルムノワールの性 Gender in Film Noir」の途中。

【善良な悪女】

フィルムノワールじゃないけど、善良な悪女というと「バルカン超特急」の修道女の恰好をした敵側の女性が頭に浮かびます。なぜそう思うのか、手元にDVDがないので確認できません。たぶん、主人公側に味方するとか、死を覚悟しているとか、そういうことじゃないかと思います。そのうち確認してみます。

あと、西部劇の「駅馬車」のクレア・トレヴァーも、いかがわしい商売だけど上品な女性よりも気骨のあるところを見せてくれたように記憶しています。彼女は犯罪物でもきっぷのいい姐御ぶりを見せてくれます。特に "The Amazing Dr. Clitterhouse" (1938) というエドワード・G・ロビンソン主演の泥棒コメディでの女親分に気の弱い男性はウットリ。でも、フィルムノワールの場合の善良な悪女はどんな女性のことなんでしょうか。

「魔性の女」の性的刺激を持ち、家庭的な女性の礼儀正しさを持っている現代的アメリカ女性の中心タイプ。そんな女性が社会の枠内に収まっていれば、魅力的この上ないのでしょうが、フィルムノワールでは不遇な境遇にいるに違いない。場末のナイトクラブの歌手とか、ギャングの親分の情婦とか。彼女は、シニカルで、強情で、お金が大好き。なぜなら、男に幻滅しているし、身動きのとれない人生に欲求不満を感じているから。

「タイムリミット25時」のスーザン・ヘイワードはダンス・ホステスで、人を信用しないし、シニカルで、最初は記憶喪失の復員兵ビル・ウィリアムズを助けようとしないが、やさしくて信頼できるビルとかかわっているうちに、彼女が基本的に持っている人間に対する信頼を取り戻す。

001

"Hollow Triumph" の厭世的な秘書ジョーン・ベネットは、「タイムリミット25時」のヘイワードほど成功しておらず、妥協の産物である。

「青い戦慄」のヴェロニカ・レイクと「三つ数えろ」のローレン・バコールは善良な悪女の良い例である。クールで、口数が少なく、性的に自信があり、独立していて、それでもなお主人公の側にいる。彼女たちは、挑発的で少し馬鹿にした主人公自身のイメージを持っているので、主人公は、まるで男性仲間といるかのような安心感を得るのである。善良な悪女は、男性と女性の性質を兼ねそろえており、魔性の女のように不誠実に見えながらも、忠義心を示すのである。彼女が積極的に主人公を助けることができなくても、彼女は主人公を支え、彼の無実や問題解決能力を信じることができる。

「三つ数えろ」における、官能的で、くすんだ声の現代的な善良な悪女バコールは、無口な私立探偵ボガートの完璧な引き立て役であり、観客は、やさしさと本当に愛する能力を隠した、挑発的で、ウィットに富んだ、冗談ぽい会話のやりとりを楽しむ。

善良な悪女の例として最良で、最も複雑な例は「ギルダ」のリタ・ヘイワースである。(この作品については、この章の最後で論じるようです。)

【女性の犠牲者】

女性の犠牲者なんて無数にいるだろうし、半ページもないこの項目の前半は「魔性の男」で述べたゴシック・ノワールのヒロイン、「レベッカ」(1940)と「断崖」(1941)のジョーン・フォンテーンと「ガス燈」(1944)のイングリッド・バーグマン。いっそのこと「女性の犠牲者」の項目をなくせばいいのにと思ってしまいます。

現代を舞台にしたものでは、ナレーションによって表現された、この種の女性の態度があいまいになります。"The Arnelo Affair" は、郊外に住む主婦フランセス・ギフォードに焦点を当てている。彼女の夫は仕事好きの弁護士で、やさしいが退屈な男なので、彼女は欲求不満がたまって、ナイトクラブの経営者と浮気している。彼女の嫌々ながらの罪悪感のある興奮は、自分の気持ちをあからさまに語るナレーションによって表現される。魔性の男である経営者は、元恋人の殺人の濡れ衣をギフォードに着せる。彼女は高まる恐怖によってどうしようもなくなり、自殺しか解決策はないとまで思いつめるが、経営者の死に際の告白によって助かる。

【文中に出てきた作品】

  • 「バルカン超特急」(1938, The Lady Vanishes)
    イギリス時代のヒッチコック作品。
  • 「駅馬車」(1939, Stagecoach)
    ジョン・フォード作品。ジョン・ウェインではなくクレア・トレヴァーがクレジットタイトルの先頭にいたような気がします。
  • "Amazing Dr. Clitterhouse"(1938)
    ボガートの24作品入りDVDセットで見ました。2010年12月1日に感想を書いています
  • 「タイムリミット25時」(1946, Deadline at Dawn)
    この邦題はビデオ題名です。原題からお気づきかもしれませんが、コーネル・ウールリッチがウィリアム・アイリッシュ名義で書いた「暁の死線」が原作です。昔から創元推理文庫にある、おなじみの作品です。上の写真は "Cornell Woolrich from Pulp Noir to Film Noir" という本からのものです。
  • "Hollow Triumph"
    ポール・ヘンリードが自分そっくりな男と入れ替わるときに、その男の頬傷の左右を間違えるというトンマなミスを犯すのですが、まわりの人たちが気づかないのもトンマ。ジョーン・ベネットは気づいていたのかな?2011年2月11日に感想を書いています
  • 「青い戦慄」(1946, The Blue Dahlia)
    ジョージ・マーシャル監督、アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイク主演。これは少し前に見たので、なにか書いておかなければ。
  • 「三つ数えろ」(1946, The Big Sleep)
    レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーローもの「大いなる眠り」をハワード・ホークス監督、ハンフリー・ボガート主演で映画化。結局、監督も誰が犯人かわからない。
  • 「ギルダ」(1946, Gilda)
    チャールズ・ヴィダー監督、リタ・ヘイワース、グレン・フォード主演。
  • "The Arnelo Affair" (1947)
    アーチ・オボラー監督、ジョン・ホディアク、フランセス・ギフォード主演。

【第5章の見出し】

  1. 男性犠牲者(2月24日)
  2. 傷ついた男:社会不適応の退役軍人と悪徳警官 (3月2日)
  3. 私立探偵(3月9日)
  4. 犯罪者と精神異常者 (3月16日)
  5. 魔性の男  (3月23日)
  6. 魔性の女  (3月30日)
  7. 家庭を守る女性:隣の女の子  (4月6日)
  8. 善良な悪  (4月13日)
  9. 性犠牲者  (4月13日)
  10. 演技者  (4月20日)
  11. 男性演技者  (4月27日)
  12. 女性演技者  (5月4日)
  13. 「ギルダ」 (5月11日)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧