フィルムノワール (213): Possessed (1947)
(フィルムノワールに続く番号は「フィルムノワール作品リスト」の番号です。フィルムノワール事典は、"Film Noir: An Encyclopedic Reference to the American Style" のこと。)
監督: カーティス・バーンハート Curtis Bernhardt
制作: ジェリー・ウォルド(ワーナー)
原作: コスモポリタン誌に掲載されたリタ・ウィーマンの中編小説 "One Man's Secret"
脚本: シルビア・リチャーズとラナルド・マクドゥーガル
撮影: ジョセフ・バレンタイン
音楽: フランツ・ワックスマン
配給ワーナー、公開1947年5月、上映時間108分、白黒
出演: ジョーン・クロフォード、バン・ヘフリン、レイモンド・マッセイ、ジェラルディン・ブルックス
邦題「失われた心」。ジョーン・クロフォードは、1920年代から活躍していたMGMを離れ、ワーナー移籍後の第一作目「ミルドレッド・ピアース」でアカデミー主演女優賞を獲得し、「ユーモレスク」(1946)、「失われた心」、「哀しみの恋」(1947)と40歳ごろは快調。フィルムノワール事典に収められている彼女の主演作は、これと「ミルドレッド・ピアース」と「悪党は泣かない」(1950、The Damn Don't Cry) と「突然の恐怖」(1952)。「突然の恐怖」については、すでにここに書いていて、ほかの作品についてもそのうち書きます。「ミルドレッド・ピアース」「ユーモレスク」「失われた心」「悪党は泣かない」というワーナー作品に、"The Women" という1939年のMGM作品が収められている5作品入りの米盤ボックスセット The Joan Crawford Collection を2年ほど前に購入して、今週「失われた心」をやっと見たのでした。
放心状態のジョーン・クロフォードがロサンジェルスの街を「デビッド、デビッド」とつぶやきながら徘徊する場面から始まり、病院に収容されて精神医を相手に回想し始めます。病院内を移動する際に彼女の視点から病院の天井を延々と写すのが印象的。
実業家レイモンド・マッセイの奥さんが寝込んでいて、クロフォードは付添看護人をしている。彼女には恋人バン・ヘフリン(デビッド)がいるが、彼女が結婚を迫るとヘフリンは断る。マッセイの奥さんが自殺し、マッセイはクロフォードと結婚する。精神的に病んでいるマッセイ夫人は死ぬ前に寄宿学校にいる娘ジェラルディン・ブルックスに「二人の仲が怪しい」という手紙を出しているので、娘はクロフォードを憎む。ここから「ミルドレッド・ピアース」のように母と娘の愛憎劇になるのかと思いきや、娘の誤解は解ける。そのかわり、自分を捨てたヘフリンが娘に言い寄り始める。
フィルムノワール事典によると、「失われた心」には監督バーンハートの心理的なテーマに対する嗜好が反映されているそうです。フィルムノワール事典に収められている「追求」(1945, Conflict)と "The High Wall" (1947) も同じ傾向の映画のようです(前者はボガート、後者はロバート・テイラー主演)。ナチを逃れてドイツからフランスへ渡り、さらにハリウッドへとやってきたバーンハートは過去に雰囲気作りの名手だったそうで、さまざまなシーンでフィルムノワールの特性を呼び起こしています。その例として挙げているのが、朝の薄明かりの中をクロフォードが徘徊する冒頭のシーン、自分がどこにいるのかわからない彼女を病院に収容するシーン(上述した彼女の視点から見上げるショットを含む)、病院の水差しからマッセイ夫人が自殺した山間の湖への連想的な転換、クロフォードの悲しげな表情を縁どる窓に流れる雨。精神的に病んでいる者からの視点で話を進め、回想シーンや幻想シーンを巧みに使うことで、現実とクロフォードの想像の境目があいまいになっているため、「失われた心」は夢幻症の適例となっており、この夢のような調子がフィルムノワールの根本的な特徴のひとつだそうです。
Film Noir Guide では五つ星満点の四つ星。タイプは三角関係、テーマは妄想、嫉妬、裏切り。この作品でクロフォードはアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ジェラルディン・ブルックスが見事なデビューを飾り、ヘフリンが陽気なゲス男として素晴らしいとのこと(1947年の主演女優賞は「ミネソタの娘」のロレッタ・ヤング)。
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