映画だけしか頭になかった:モンクのソロではじまった「危険な関係」
今はなき雑誌「映画の友」1961年5月号に掲載されたもの。当初この作品は輸出禁止になったらしい。輸入禁止ではなく、輸出禁止だから、フランス側が「こんなふしだらな映画を外国に見せるのはフランスの股間(もとい沽券)にかかわる」と思ったらしい。で、めでたく2年ぐらいしてから日本でも見れるようになったので、植草さんはうれしくおもったし、タイトルのバックでセロニアス・モンクのピアノが聴こえてくるのでので、思わず緊張する。
原作は1782年に出版されたラクロの書簡体小説で、昔恋人同士だった二人の手紙のやりとりによって構成されています。女性ジュリエットが男性バルモンに貞淑な女性を落とすようそそのかして、バルモンがジュリエットにその報告をするのです。映画ではバルモンとジュリエットは夫婦で、互いに貞淑な異性を落とすことを報告し合うことで、夫婦間の愛を維持しているようです。バルモンはジェラール・フィリップ、ジュリエットはジャンヌ・モロー。1959年に肝臓がんで36歳の若さで亡くなったフィリップは、ブニュエルの「熱狂はエルパオに達す」が遺作となったようですが、「危険な関係」はその前の作品。
植草さんは、バルモンが居間でモンクの「ブリリアント・コーナーズ」のレコードを取り出す、と書いているのですが、「そんなシーンあったっけ?」とDVDで確認してみたら、私が持っている最近のCDのジャケット写真と違っているようです。最初のほうはセロニアス・モンクの曲が多く、後半になると激しいジャズになってきて、どうもアート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズになるらしい。聞き覚えのあるテーマ曲「危険な関係のブルース」(原題 "No Problem")は彼らの演奏らしいが、今ではデューク・ジョーダンの曲として知られています。どうもデューク・ジョーダンは当時ジャズ・メッセンジャーズのメンバーだったらしいし、当初は彼の作曲だということが知られていなかったらしい。このあたり、はっきり調べる余裕がないので、興味がある人は自分で調べてみてください。少なくとも、植草さんの文章の中にデューク・ジョーダンという名前は見当たらない。
植草さんは、スキー場を舞台にした場面でのマルセル・グリニョンによる雪景色の白黒撮影が良いと書いています。実際そのとおりなんですが、私が最近購入した日本盤DVDはあまり画質が良くない。しかも、日本語字幕を消すことができない。
原作は手紙のやりとりですが、映画ではジェラール・フィリップがジャンヌ・モローに出した手紙の文書をナレーションで語っています。このナラタージュ手法を植草さんはほめています。私が面白いと思ったのは貞淑な人妻マリアンヌを落とすくだりで、フィリップがあの手この手で口説いている途中、「ここで泣こうと思ったが涙が出なかった」というナレーションと、その時のフィリップの様子や表情に、ユーモアさえ感じました。
こんな不道徳な場面でも生真面目な私が余裕をもって見ることができるのは、マリアンヌ演じるアネット・バディムにしても、もう一人フィリップの犠牲になるジャンヌ・バレリーにしても、あまり純情な女性に見えないからで、もし彼女たちが純情で清楚な女性であれば、私は怒り心頭に達して、血圧が50は上がっていたことでしょう。それに、年をとれば年相応の人に魅力を感じるようで、ジャンヌ・バレリーの母親のシモール・ルナンに惹かれました。1911年生まれで、このとき48ぐらいだから、私にぴったりだ。彼女は、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「犯罪河岸」に出てるのだけど、悪女シュジ・ドレールじゃなくて、女写真師のほうです。あと、「リオの男」のアマゾン川沿いの酒場で熟女歌手ローラとして登場します。
付け加えると、ボリス・ビアンが出ていて、「アデンアラビア」の最初の言葉「僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」から受ける若くて反抗的なイメージからすると、やけにおっさん臭くて、おとなしいなあと思っていたら、「アデンアラビア」はボリス・ビアンではなくポール・ニザンでした。どこで混乱しちゃったんだろう。心臓が悪いらしく、映画から受ける印象が弱々しくて、結局彼も1959年に39歳で亡くなったそうです。
もう一つ付け加えると、ラストのジャンヌ・モローに対する罰は、トリュフォーが「突然炎のごとく」を作るときに意識していたのでしょうか。あまり詳しく書きませんが、原作では天然痘で顔が醜くなるらしく、「原作を読んだことのある人は、ジャンヌ・モローに種痘の跡があるのにビックリするかもしれない」ってポーリン・ケイルは書いています。
今回は、あまり植草さんの文章とは関係なくなってしまいましたが、植草さんのはストーリーを細かく書いている部分が多いので、要約しにくい。
少し前に「素直な悪女」の日本盤が千円台で発売され、来週「恋人たち」が千円台で発売されるので、まとめて注文中。
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