「映画だけしか頭になかった」を楽しむ(その3)
今日は「ルビッチの死を惜しんで」という短いエッセイを読みます。もともと、「アメリカ映画」という雑誌の1948年3月号に掲載されたようです。
このエッセイは、30年近く前の回想から始まります。「山猫リュシュカ」を見た姉が帰ってきて、「ポーラ・ネグリが、ガブガブお酒を飲んで、オシッコをすると、それが河のように流れていくのよ」と言う。植草甚一少年が「面白かったの?」と聞くと、「へんてこな活動写真、なんだか表現派みたいよ」と答える。
少し前に発売された Kino on Video から"Lubitsch in Berlin" というDVD5枚組に「山猫リュシュカ」が含まれていましたが、たしかに変な映画でした。画面が縁どられているのですが、縁取りがショットごとに異なるのです。「野菊のごとき君なりき」のように回想シーンを楕円形で囲む程度のものではないのです。ショットごとに円だったり、三角だったり、縦長だったり、横長だったりするのです。画面の上下が黒く縁どられた横長の画面は、ワイドスクリーンの映画をテレビで見るのとまったく同じ趣です。内容も奇妙でした。
結局、植草氏(以下、「JJ氏」)は「山猫リュシュカ」を見逃してしまって、ルビッチの話題が出るたびに「山猫リュシュカ」のことを思い出す羽目になります。それ以前に、「呪の眼」「黒白姉妹」「花嫁人形」が日本で上映されたけど、JJ氏より前の世代の人しか見ていないらしい。JJ氏は1908年生まれだから、まだ10歳ぐらいでした。「花嫁人形」は Kino のDVDに入っていました。
JJ氏は、「山猫リュシュカ」と同じころの「ファラオの恋」「寵姫ズムルン」「カルメン」は見ています。「ファラオの恋」はドイツのスペクタクル映画で、「アメリカのスペクタクル映画と違って、画面構成にも独特な幅と奥行きがあり、演出手法も当時よくいわれていた「深刻だ」という感じをよく出していたので、見ていて非常に興奮した」そうです。
「寵姫ズムルン」も Kino のDVDに収録されていました。ルビッチ作品の中で一番演出がどぎつい傑作だと書いています。脇毛をそっていないポーラ・ネグリが挑発的で、ルビッチが淫蕩的な老人に扮し、怪しげな丸薬ばかり飲んでいました。「カルメン」でも、ネグリは脇毛を風にゆらめかせて、観客を唖然とさせたそうです。
こうしたどぎつい演出はアメリカに渡ってからは薄れてしまって、JJ氏はガッカリするのですが、「やがてソフィスティケーションの名手と言われるだけの傑作をいくつも発表して、映画を見るたのしみを与えてくれた」のでした。
JJ氏は、ルビッチの死を惜しんで、アメリカの雑誌の訃報欄の記事をノートに書き写します。
Ernst Lubitsch, 55, creator of "the Lubitsch touch" of slick sophistication in films, died in Hollywood, Nov. 30, 1947.
まだ、この時点では、そのソフィスティケートされた傑作群は日本で紹介されていなかったらしく、ルビッチは日本ではニ、三年したら忘れ去られるだろうと書いています。
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