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2006年11月30日 (木)

溝口健二の「浪華悲歌」(なにわエレジー)

とにかく山田五十鈴の映画で、彼女のバイタリティが他を圧倒してしまう。

製薬会社の電話交換手をしているのだけど、交換台から見えるオフィスで働いている恋人に私的な電話をかけて恋人をうろたえさせる開巻から、積極的で現代的。父親が借金だらけなので、製薬会社の社長の愛人になるが、メソメソせずに見事に二号さんを務めているのが偉い。兄が大学を卒業して就職するのに金が必要になったので、今度は社長の顔見知りで株の外交員をやっている進藤英太郎からお金を巻き上げる。お金をやったのに寝てくれない五十鈴に怒った進藤は美人局(つつもたせ)の罪で警察に彼女を連行させる。家族は、自分たちのふがいなさのために彼女をここまで追いやったのに、彼女を家から追い出してしまう。

というような話ですが、彼女のマンションに進藤が怒鳴り込んできたとき現場にいた恋人は縮み上がってしまい、美人局の共犯者として一緒に連行されると、あんな怖い女だとは知らなかったんですと泣き言を並べて釈放してもらう。父親も兄も頼りにならない人たちで、むしろこんな人たちとは縁が切れたほうが自由な気がして、社会的には転落人生だとはいえ、明日のない人生というような終わり方だとは思えませんでした。

けっこう軽妙な映画で、おなじみ進藤英太郎、社長役の志賀麺家(しがのや)弁慶、社長夫人の梅村蓉子がコミカルな味を出しています。溝口健二というと重い感じがして、コメディとはほど遠いような気がしますが、そういえば、少し前に見た「西鶴一代女」の前半はけっこうコミカルで感心したのでした。

DVDのジャケットによれば、封切り時は89分でしたが、現存する版は71分しかない。トーキーになってから数年ぐらいたっているのですが、音声がまだぎこちない。1936年のキネ旬3位。1位も溝口健二の「祇園の姉妹」で、主な出演者も同じ。私は1983年1月に三百人劇場で両作品を見ました。

ちなみに、山田五十鈴はこのとき19歳で、映画女優としてすでに数年のキャリアがあり、少し前に子供を生んでいる(のちの瑳峨三智子)。

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